北里大学一般教育紀要
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原著論文
吉行淳之介『男と女の子』論
―死者の視点―
野村 廣之
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2015 年 20 巻 p. 21-43

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抄録

『男と女の子』は、1958年に発表された吉行淳之介の長篇小説である。本稿の目的は、
(1) 『男と女の子』をめぐるこれまでの言説を概観すること、
(2) 『男と女の子』の原型としての短編「皮膚と心」を分析すること、
(3) 吉行作「皮膚と心」と太宰治作「皮膚と心」を比較すること、
(4) 『男と女の子』における私小説的要素を明らかにすること、
(5) 『男と女の子』のテーマが何であるかを明らかにすること、
(6) そのテーマが吉行の小説作家としての倫理意識とどのような関係にあるのかを明らかにす ること、
である。 『男と女の子』のテーマは、日本の大東亜戦争(太平洋戦争)敗戦前後に不幸にして亡く なった「死者」の視点から、敗戦後の吉行自身を含む日本人の生き方を描くことである。吉行は、 敗戦後の世の中を逞しく生き抜いて行こうとするヒロインの生き方を最終的に肯定する。こうし たヒロインの生き方は「戦中少数派」作家としての吉行の基本的な倫理意識を反映しているので ある。

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