2023 年 71 巻 2 号 p. 43-48
我が国の参加する国際有人宇宙活動は,国際宇宙ステーション(ISS)計画を経て,いよいよ月の有人探査(アルテミス計画)に移行しつつある.ISS計画により宇宙医学・心理学の多くの知見が蓄積され,少なくとも地球の軌道上では宇宙飛行士は健康を損ねることなく,半年程度の長期活動が行えることが実証された.しかし月の有人探査となると,飛行士の健康管理のハードルはかなり高くなり,特に放射線被ばく,健康管理の自立性,精神心理的ストレスへの対策などが課題となるであろう.本稿では特に心理的課題について論じるが,地球からの支援が容易でない月探査活動でのストレスや対策を考える時,最も参考とすべきは南極越冬隊の長年の経験であると考え,心理研究の文献をレビューした.南極特有の現象として,越冬症候群,第3四半期現象,ステージ理論などが報告されているが,月派遣隊への心理的対策にも応用できる知見が多く,隊員の選抜,教育・訓練,支援対策の企画・実施のために有力な参考となるであろう.