抄録
診療における最初の重要な判断である診断について考察した. その思考過程では, まず問診・診察・検査などで患者情報を収集し, これらを整理, 分析して帰納的に仮診断を立てること (仮説法) が行われる. 次に, 確立されている疾患を大前提とし, 仮診断 (小前提) がこれに適っていること, 正しいことを演繹的論証で導くが, その際には三段論法を用いていることが多い. この診断体系を仮説演繹法というが, その仕組みと健全性を検証した. 多くの医師は無意識にこの診断過程を辿っていると思われるが, この体系や三段論法について理解・認識している者は少ないようである. また, 診断における論理について解説した書もあまり見当たらない. 本稿では, 症例を提示しながら診断の理論体系について考察したが, とりわけ仮診断とこれを導く帰納的推論の重要性を述べ, その為の情報収集と分析の技術・知識と経験の大切さについて言及した.