北関東医学
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癌とカルシウムに関する実験的研究
第3報 食塩による胃粘膜傷害とカルシウムに関する組織学的検討
箕輪 真一高橋 煕内狩野 武松山 研二荒木 康雄八木 隆
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1960 年 10 巻 6 号 p. 713-718

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抄録
先にわれわれは胃癌死亡と河川の含有成分及び地質との関連を探索し, 河川中のカルシウム含有量の多い流域ならびに石灰岩地帯は胃癌死亡が比較的少ないことを見出し, 土壌中のカルシウムが飲料水, 食物などを介して直接的あるいは間接的にその地域住民の胃癌発生に対して何らかの抑制的作用を及ぼしているものと推定した.
その後かかる疫学的事実に関連して実験的検討をすすめているが, エールリッヒ癌細胞増殖が相当量のカルシウム含有食品摂取により抑制され, 一方, 胃癌発生の一誘因とも考えられる高濃度食塩含有食品による胃粘膜傷害は同時に或る程度以上のカルシウムを添加することにより少なくも肉眼的には抑制し得ることはすでに実験的に明らかにした.
今回は動物実験でかかる高濃度食塩含有食品による胃粘膜傷害と, これに対するカルシウムの影響を組織学的に検討したので報告する.
胃癌発生の素地をなすものと考えられる高濃度食塩含有食品摂取による胃粘膜傷害に対して, カルシウムが如何なる影響をもたらすかを実験マウスを用いて組織学的に検討した.
高濃度食塩含有飼料投与により胃粘膜は被覆上皮細胞の脱落, 消失が著しく, 壁細胞, 主細胞共に原形質は縮少して球状化し, 遂には糜爛にいたる高度な病変を生ずるが, 同飼料に相当量のカルシウムを添加した飼料投与の場合はかかる病変はなく正常粘膜像と同様であることを認めた.これは明らかにカルシウムにより食塩による胃粘膜傷害が防禦されたものと解される.
かかる実験結果から, 習慣的な高濃度含有食品摂取によって胃粘膜は傷害され, いわゆる慢性胃炎像を生じ, 遂にはこれが胃癌発生の素地をなすと考えるならば, カルシウムはかかる機序に対して防禦的に作用し, 強いては胃癌発生の抑制ともなり得るものと類推した.
本論文の要旨は昭和35年5月, 第30回日本衛生学会総会におい発表した.
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