北関東医学
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大気汚染による人体被害推定の疫学的研究
第3報発育に伴う身長及び肺換気量増量の相互の関連からみた大気汚染地域学童の検討
永田 稔
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1972 年 22 巻 6 号 p. 383-389

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抄録

塩化水素ガスを主要物質とする大気汚染地域の学童について3年生時と5年生時に実施した2回の検診成績を用い, その間にみられた肺換気量の増加量を, 主として身長の増加量との関連で検討した.
検討対象は昭和35年4月~36年3月生 (昭和46年度小学5年生) であり, 汚染地域のT小男47人, 女45人, F小男44人, 女50人, 対照校のK小は男105人, 女104人であった.尚, これらのものは, 検診時の測定値により身長が一定範囲内にあるように限定した.
主なる所見は次のごとくである.
1) 両検診間における身長増加量の各校平均値は男8.5cm, 女10.0cmであり, 学校間の差は全く認めない.
2) 同期間内における肺換気量の増加は各校の平均値がFVCでは男0.385~0.489 l, 女0.355~0.533 l FEV1.0男0.306~0.332 l, 女0.303~0.431 lの間にあった.又, PFRでは男68.7~87.41/min, 女82.7~109.01/minの間にあった.
3) FVC, FEV1.0の期間内増加は汚染校において大であり (P<0.05~P<0.01), 3年生時の計測値が最低であったT小の増加が最大であった (男・女).
4) FVC, FEV 1.0の増加量と身長の増加量との間には対照校のみに有意 (P<0.01) の相関が得られ, 汚染地域の学童には有意の相関は得られなかった (男・女).
5) 上記の所見から汚染地域の学童では, 集団としてみるときFVC, FEV 1.0において代償的とみなし得る増大があり, その代償的増大は個人差が大であることが推測される.
6) 本報のごとき検討方法を用いるべく当初よりデザインされた検診の成績は地域の慢性閉塞性疾患の生活史 (natural history) を知る上で貴重な示唆を与えるものと期待出来る.

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