抄録
胃酸分泌抑制薬であるヒスタミンH2受容体拮抗薬 (H2-RA) や, プロトンポンプ阻害薬 (PPI) は慢性消化性潰瘍, 急性胃粘膜病変 (AGML) の治療に極めて有用であるが, 薬剤の不適切な投与や中断による再発, 再燃がしばしば認められている.本研究では, これら薬剤の投与と胃酸分泌に密接に関与する血中ガストリン動態と胃粘膜中のガストリン産生細胞の変化の関係を詳細に検討する目的で, ラットにおけるH2-RA及びPPIの長期投与時及び中断後の幽門腺ガストリン細胞数 (G細胞数), 胃酸分泌及びガストリン分泌の動態をしらべた.各薬剤4週間又は8週間連続投与後に, 幽門腺ガストリン細胞数の有意な増加を認めた.さらに各薬剤の3倍量投与群では血清ガストリン値の有意な上昇も認めた.一方投与後変化がpeakに達するまでと同期間の休薬により, 幽門腺ガストリン細胞の増加及び高ガストリン血症が消退することが知られた.
以上の結果から, H2-RA及びPPIによる胃粘膜変化, ことに胃酸及びガストリン分泌の動態変化はこれら薬剤の投与によるG細胞の増加と血清ガストリンの高値であり, このような変化は休薬により投与前に恢復することが確認された.消化性潰瘍の薬物治療に際しては, 胃液分泌の変動は可逆性を有する事に着目し, 病態の改善に応ずる薬剤の漸減的投与を実施する事が肝要であると考えられた.