秋田県男鹿半島に分布する中新世女川層の珪質頁岩は、主に珪藻の堆積によって形成されたが、続成作用によって生じたシリカ鉱物相の違いから、珪藻土帯(オパールA帯)、オパールCT帯、石英帯の三つに区分することが出来る。
これまでの研究で、オパールCT帯と石英帯の境界部(約50mの連続観察が可能)を詳細に記載し、全岩化学組成、鉱物共生、オパールCTの結晶度、自生石英生成量等の変化を明らかにしてきたが、全岩化学組成の変化が何に依存するのかは未考察のままであった。今回、上記データの再検討を行い、特に全岩化学組成の主要成分については、データの再現性を厳密に検証することにより、オパールCTからの石英転移過程に伴う石英含有微量元素(Li、K、Be、Mg、Mn、Al、Ti)の挙動を明らかにした。
I. 自生石英生成量とオパールCTの関係
自生石英生成量とオパールCT減少量の間には明確な逆相関の関係があり、自生石英が成長する場においてオパールCTが不安定になり消滅する過程を捉えることが出来た。
II. 自生石英生成量とSiO2濃度の関係
シリカ鉱物転移境界部のオパールCT帯側で、SiO2濃度はオパールCTの存在量に依存している。一方、それより石英帯側では、SiO2濃度と石英量の変化パターンが一致していることから、SiO2濃度は自生石英生成量に依存していることが分かる。
III. 自生石英生成量とAl濃度(Al2O3として)の関係
石英から検出される微量元素としてAlは最も普遍的なものであり、自生石英形成の初期段階では、その生成量と密接な正の相関関係を持っている。しかしながら、続成作用が進み石英が熟成してくると、その相関は弱くなり、最終的には、一部を残し、Alは結晶外へ排出される。
IV. Alとそれ以外の石英含有微量元素との関係
Li:自生石英の生成と密接な正の相関関係を持ち、石英の熟成が進んでも結晶内に残っている。これは、そのイオン半径が小さく(0.68Å)、石英構造の隙間に入り込めることによるものと考えられる。
K:自生石英生成の初期段階では、非常に良い相関関係を示すが、石英の熟成が進むと、やはり減少を始める。Kは石英のフレームワークを構成するAlの電荷不足を補償するのに必要な元素であるが、イオン半径が大きいため(1.46Å)、石英の熟成が進むと結晶外に排出されると考えられる。
Be:自生石英中のBe量は、Al及び以下に述べるMgとも密接な相関関係を示す。Beは存在量が少ないため、自生石英に固溶されている量も少ないが、イオン半径的には石英のフレームワークの隙間に入れるため(0.35Å)、Mg等の二価の元素が固溶された場合、それらの電荷補償の役割を果たしていると思われる。
Mg:石英含有二価元素の内、イオン半径が最大で(0.66Å)、本来は固溶されにくい元素であるはずだが、2wt.%近くも含まれている。しかしながら、現段階でこれを合理的に説明することは出来ない。
Mn:MnはAlの変化と部分的には似ているが、全体的な相関関係は良くない。
Ti:固溶量の変化はAlと似ている。Tiは四価の場合、価数的には問題ないが、四配位をとらないこととイオン半径が大きいために(0.61から0.69Å)、石英の熟成に伴い結晶外へ排除されると考えられる。