抄録
本研究では、天然の隕石に近い、Ca及びFeに富み、かつAlを含むような輝石組成について、下部マントル圧力条件(約30GPa、1000-1900℃)における安定相を調べる為、放射光を用いた高温高圧その場観察実験を行った。
高圧鉱物には、大気圧に戻すとアモルファス化してしまう相が多く、また、回収試料の粒径も非常に小さい為、急冷実験のみで安定相を決定することは困難である。加えて、Caに富む輝石に関しては、cubic-pv相が準安定に出現することが、報告されており、安定相の決定にはさらに注意を要する。マルチアンビルを組み合わせた放射光実験の利点は、高圧下で、安定した高温条件を保持した状態でX線その場観察が行える点であり、本研究では、その利点を生かして、相転移の進む過程を直接観察する事で安定相の確認を行った。また、組成の温度依存性を調べる為、急冷回収実験も合わせて行った。
実験方法
高温高圧その場観察実験は、KEK-PF(BL-14C)設置の700tonキュービックプレス(MAX-III)と1辺10mmの焼結ダイヤモンドマルチアンビル高圧装置を用いて行った。また、高温発生にはLaCrO3ヒーターを用いた。圧力は金の状態方程式を用いて測定した(Anderson et al., 1989)。出発物質には合成したCa1.0Mg0.6Fe0.2Al0.1Si2O6組成の輝石とガラスを用いた。約30GPa、1000-1900℃の範囲で実験を行った。急冷回収実験は東北大学設置の700tonキュービックプレス(SPIRIT-700)を用い、30GPa、1000-1200℃の条件で実験を行った。回収試料の化学分析には北大及び東大物性研の分析透過型電子顕微鏡を用いた。
結果
ガラスを出発物質とした実験については、32GPaにおいて1300℃付近からcubic perovskite相(CM-Pv)が単独で晶出し、その後、100-200℃ごとに5-15分間温度を保持して回折パターンをとりながら昇温していったところ、1800℃において、CM-Pvから、Ca-pv (cubic) + Mg-pv (orthorhombic)+ stishoviteへ分解する様子が観測された。一方、輝石を出発物質に用いた実験では、同様のCM-Pvの分解が、30GPa、1200℃において観測された。輝石を出発物質にした場合、輝石から、Ca-pvとMg-pvもCM-Pvと同時に晶出しており、このため、ガラスからCM-Pvが単独に晶出する場合よりも低温で、CM-Pvが分解したと考えられる。この結果は、約30GPa、1200℃以上では、Ca-pv+ Mg-pv + stishoviteの組み合わせがより安定であり、最初に晶出するCM-Pvは準安定相であることを示している。また、回収試料の化学分析の結果、1000-1800℃の温度範囲においては、Ca-pvとMg-pvのCa/(Ca+Fe+Mg)は各々0.98,0.01で、ほとんど互いに固溶しないことが確認された。