抄録
(はじめに)
水は地球表層に大量に存在する主要な揮発性成分の1つであり、その水がスラブの沈み込みによって常に地球内部に供給され、鉱物の物性や溶融温度に大きく影響を与えることが明らかにされてきている。特にマントルの主要構成鉱物はカンラン石であり、その高圧相のwadsleyite, ringwooditeには3wt%ものH2Oが結晶構造中に含まれうることが明らかにされてきてはいるが、実際の水の存在割合を議論する場合、それらの鉱物間の水の分配が重要で、マントル中のどの層に相対的にどれぐらい水が存在可能かということを知る必要がある。現在までolivine-wadsleyite間(Chen et al.,2003)、及びwadsleyite-ringwoodite間(Kawamoto et al., 1996)でこのようなデータが報告されているが、特に後者ではデータは1点だけである。本研究ではオリビンの高圧相転移のwadsleyite-ringwoodite、及びringwoodite-perovskite間における水の分配を明らかにし、上部マントル、マントル遷移層、及び下部マントル間の水の分配を明らかにした。
(実験方法)
本研究の含水系の出発物質には(Mg0.8Fe0.2)2SiO4+16wt%H2OになるようにFe2SiO4, Mg(OH)2, SiO2の混合粉末試料を、無水系には(Mg0.8Fe0.2)2SiO4になるようにFe2SiO4, MgO, SiO2の混合粉末試料を用意した。実験装置は愛媛大学設置のマルチアンビル型高圧発生装置を使用し、wadsleyite-ringwoodite間の水の分配を求める実験は14.6~17.0GPa、1400℃の条件下で、ringwoodite-perovskiteの水の分配を求める実験は~23.5GPa、1600℃の条件下で行った。今回の実験は含水量測定に耐え得る大きな共存結晶を得ることを目的としているので、比較的大きい含水量を選択し、また温度も含水ソリダス直上になるよう設定した。実験は目的の圧力まで加圧、圧力を一定に保ちながら加熱した後、急冷減圧し回収した。回収試料は顕微ラマン分光装置、及び反射電子像により相の同定を、さらにエネルギー分散型電子顕微鏡により化学組成を測定した。また含水量は東京工業大学設置の二次イオン質量分析計により測定した。
(実験結果)
含水系で含水量測定に耐え得る50μm以上のwadsleyite及びringwooditeの共存結晶、及びringwoodite及びperovskiteの共存結晶を合成することに成功し、この共存結晶間での水の分配が明らかにできた。Wadsleyiteとringwoodite間の水の分配係数は5点で制約できたが約2程度となり、これはKawamoto et al.(1996)での値(2.5)と近い値を示した。またringwooditeとperovskite間の水の分配係数は約10かそれ以上となった。我々の以前の研究(Chen et al.,2003)によりwadsleyiteとolivine間の水の分配係数は約5程度と明らかにされているので、410km以浅の上部マントル、410-520km及び520-660km間のマントル遷移層、及び660km以深の下部マントル間での水の分配は4:20:10:1ということになる。すなわち、マントル遷移層に極めて高濃度に水が保持され、地球内部の水の貯蔵庫となっていることが考えられる。