抄録
[はじめに]
炭酸カルシウムの溶解及び結晶成長過程に及ぼす不純物効果については、これまで多くの議論が行われてきた。本研究では、炭酸カルシウムのうちカルサイトとアラゴナイトの結晶成長過程に及ぼす不純物効果の液中その場観察の比較検討を行った。これまで原子間力顕微鏡を用いたその場観察としては、炭酸カルシウムの中ではカルサイトを用いたものが大部分を占めており、アラゴナイトの結晶成長実験をリアルタイムで観察した例は生体鉱物を除くと殆どない。不純物としては、鉱物及び生体に濃集、吸着しやすい性質を持ち、カルサイトの溶解を阻害する元素として報告されている (Kamiya et al., 2002) 希土類元素を使用した。
[実験]
原子間力顕微鏡(AFM)はSHIMADZU製のSPM-9500を使用し、コンタクトモードで観察を行った。炭酸カルシウムの過飽和溶液は炭酸水素ナトリウムと塩化カルシウムを用いて作製し、過飽和度Ω=0.1-0.5に調整した。また、イオン強度I=0.1、pH=8.7になるように水酸化ナトリウム及び塩化ナトリウムを用いて調整した。 5 mm角程度のカルサイト(ブラジル産)及びアラゴナイト(モロッコ産)の単結晶を、劈開面が走査できるように液セルへ固定し、純水でエッチングした後にあらかじめ用意した過飽和溶液で液セルを満たした。さらにぺリスターポンプで同過飽和度の液を交換しながら(流速0.15 ml/min)、結晶成長過程のその場観察を行った。そのまま観察範囲を変えずに再び純水を流すことによって結晶表面をエッチングし、次に5 mMの希土類元素を含有した炭酸カルシウムの過飽和溶液を用いて同様な実験を行った。希土類元素含有溶液は塩化物から調整した。
[結果]
カルサイト、アラゴナイト共に不純物無しの条件ではステップの進行やエッチピットの縮小といったような結晶成長過程を観察することができた。しかし、アラゴナイトではカルサイトに比べて結晶成長が起こりにくく、より高い(2倍程度)過飽和度の溶液を必要とした。 一方、希土類元素のうちランタンイオンを添加した過飽和溶液中において、カルサイトでは溶液を流し始めてから約30分経過後にエッチピットの縮小が見かけ上停止し、結晶成長の阻害と考えられる効果が観察された。その後、160分にわたってカルサイト結晶表面は成長も溶解も起こらなかったが、結晶表面にはランタンイオンに起因する結晶成長阻害物質は特に観察されなかった。アラゴナイトの結晶成長に及ぼす希土類元素の影響については当日報告する。