日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2004年度年会
セッションID: k08-03
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鳥取県若桜地域産ヒスイ輝石岩および関連岩からのSr含有珪酸塩鉱物 -糸魚川石および新潟石- の産出について
*下林 典正
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抄録

西南日本に分布する三郡帯-蓮華帯から蛇紋岩メランジェ中の構造ブロックとしてのヒスイ輝石岩が報告されている(例えば,新潟県糸魚川-青海地域,兵庫県大屋地域,鳥取県若桜地域,岡山県大佐地域など)。その中でも,日本最大のヒスイ産地である新潟県の糸魚川-青海地域のヒスイ輝石岩や関連岩石については多くの研究がなされており,これまでに6種類の新鉱物(青海石・‘奴奈川石’・糸魚川石・蓮華石・松原石・新潟石)が報告されている。これらは、いずれもSrを含む珪酸塩鉱物である。本研究では,鳥取県若桜町角谷地域のヒスイ輝石含有岩の岩石記載を行い,糸魚川石や新潟石といったSr含有珪酸塩鉱物を新たに見出した。そのいずれも,原産地である糸魚川-青海地域に続いて、世界2例目の報告である。本地域でのヒスイ[若桜ヒスイ]の産出は1965年に鳥取市一行寺の中野知行師によって発見され、益富(1966)によって公表された。若桜ヒスイは,発見・報告当初から、白色から淡青色(まれにラベンダーヒスイもある)の‘硬玉’と緑色の‘軟玉質’岩石とに大別されることが知られていた。前者は益富(1966)によりヒスイ輝石岩であることが確認されていたが、後者に関しては原田(1968)による両岩石の化学分析比較が行なわれたことはあるが、岩石記載は行なわれていなかった。今回、偏光顕微鏡観察および蛍光X線分析による全岩分析によって、前者はヒスイ輝石岩であることを確認するとともに、後者はいわゆる‘軟玉’(ネフライト)ではなくパンペリー石・緑泥石やヒスイ輝石を主要構成鉱物とするパンペリー石岩であることがわかった。昨年度の年会において、下林・山田(2003)は、このパンペリー石岩の円礫を横切るヒスイ輝石細脈中に糸魚川石の存在を報告した。その後の研究で、若桜産の糸魚川石はヒスイ輝石が主体をなす‘硬玉’においても同様の産状 -すなわち,糸魚川石とパンペリー石との共生体とその周縁部にセルシアンが分布した組織がヒスイ輝石の細脈中に見られる- が観察された。このことから、若桜地域においては、ヒスイ輝石岩やその関連岩石の割れ目に沿ってAl,Na,Ba,Srなどに富む変成流体が浸入し,まずは壁面からヒスイ輝石・セルシアンの順に無水鉱物が晶出し,その内側に糸魚川石とパンペリー石といった含水鉱物が互いにintergrowthしながら成長したと考えられる。また、前述の糸魚川石が発見されたパンペリー石岩円礫のマトリクス部から新たに新潟石が見出された。新潟石は、宮島ら(2001)によって青海町宮花海岸から採取された特異なロディン岩(ダイアスポア含有ぶどう石岩)転礫より発見・報告された新鉱物で、クリノゾイサイト[Ca2Al3Si3O12(OH)]の A2席のCaをSrに置換したもので、理想化学式はCaSrAl3Si3O12(OH)である。糸魚川石と新潟石とが同一岩石から報告されたのは初めてである。若桜産の新潟石はSrを含有するクリノゾイサイトをovergrowthする形で共生し,両者は長さ約100μmの葉片状結晶の集合体として産する。新潟石-Sr含有クリノゾイサイト共生体はヒスイ輝石,緑泥石,パンペリー石および少量のチタン石と共存している。若桜産の新潟石の組成を原産地のものと比較するため、Miyajima et al. (2003)に倣ってO=13で規格化したところ、若桜地域の新潟石はFeに乏しくAlに富みことがわかった。また、A席を占めるべきCaとSrとがともに若干乏しく、Ca+SrのみではA席に空席を生じてしまうことになる。そのため単純には比較できないが、XSr(A2席におけるSr/(Ca+Sr)比)に換算すると0.79となり、原産地のもの(0.67-0.79)よりも若干高い値を示すこととなった。

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© 2004 日本鉱物科学会
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