抄録
ハイパーソルバス閃長岩中アルカリ長石は、顕微鏡的に汚濁したマイクロパーサイト部分のほかに、熱水反応を免れた顕微鏡的に清澄な初生的部分(クリプトパーサイト)を大なり小なり残しているので、マグマからの冷却史を解析する上で近年非常に有用な研究対象とされている。チリ共和国の最南部パタゴニアアンデスに位置するバルマセーダ山麓から採取した閃長岩アルカリ長石の組織は、これまで解析された他の産地のものと異なる特徴をいくつか示している。また、特徴のあるCaゾーニングパターン(Nakano, 1998)と、ほぼそれと反対の特徴を示すFeの特異な分布パターンが存在する。 一方、近年カソードルミネセンス(以下、CL)法が、鉱物研究に広く応用されてきている。アルカリ長石のCLカラーとして、Smith and Stenstrom (1965)の研究以来、赤色と青色が知られてきている。赤色のCLについてはいくつかの微量元素の存在が要因として検討されてきた。Finch and Walker (1992)は、閃長岩アルカリ長石の初生的部分が青色の、熱水反応で粗大したマイクロポアに富むマイクロパーサイトの部分が赤色のCLを示すことから、赤の発光にはmicroporosityが関係しているのではないかと指摘した。最近のFinch and Klein (1999)の研究では、青色のCLの要因はAlとの結合Oにおける電子空孔の存在であり、赤色CLの要因はT1に位置するFe+3の存在によるものであることが明らかにされた。 以上のこれまでの研究をふまえると、本アルカリ長石は、CaとFeの分布の起源や微細組織の成因を研究する上のみならず、CL法による鉱物微細組織研究の観点からも適当な試料と考えられる。そこで、今回本アルカリ長石についてのCL像を観察し、Feの分布及び組織変化のパターンと対応させその解析を行った。その結果、本アルカリ長石のCLカラーは、顕微鏡的に清澄で微細組織のない初生的部分(Fe2O3 約0.2%)が青色、Feに富む初生的部分(Fe2O3 _から_2wt%)が明るい赤色、Feを少なくとも少量含むマイクロパーサイト部分が暗い赤色(Fe2O3 約0.3%以上)、ほとんどFeを含まないマイクロパーサイト部分が暗色(ほとんどルミネセンスがない)であることがわかった。