国語科教育
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Ⅰ 研究論文
学習者の「解離」が示す文学教育の課題と可能性
河上 裕太
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2021 年 89 巻 p. 3-11

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抄録

本論文の目的は、学習者の主観的体験と解離性障害の診断を受けた患者のエピソードを比較し、文学の教室における「解離」を明らかにすることである。

解離性障害の患者の個別的なエピソードには、自己の内部に複数のパースペクティブが統合されずに並列する様相が見られる。学習者Tの『山月記』論でも自身の読みとして授業の読みを提示しながら、初読の際の問題意識に触れるという形で、統合されない二つのパースペクティブが表現されていた。

教室で文学を扱う場合、学習者は教師と作品に引き裂かれ「解離」する可能性がある。また『山月記』に特有の作品構造も学習者の「解離」を刺激する可能性がある。学習者が「解離」し、授業の読み(=自己)を自分の読み(=自己)として流通させる構造には解離の病理がある。一方で学習者が「解離」することは、文学がそれ自体で学習者に対話を仕掛けているという文学の教材としての可能性も示唆している。

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© 2021 全国大学国語教育学会
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