国語科教育
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Ⅲ 実践論文
戦争の表象をめぐる文学の授業実践――予定調和を超えた主体的な学びとして――
高松 美紀
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2025 年 98 巻 p. 72-80

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抄録

本稿は、高校生を対象に「文学はどのように戦争を表象するのか」をテーマとした授業実践を検討したものである。共感の偏重や予定調和を回避し、主体的かつメタ的、多角的な視点を得ること、文学独自の表象を分析するスキルを獲得し、表象自体を批判的に考えることを目標とした。実践では、虚構による表象可能性の議論、ティム・オブライエン「待ち伏せ」「私が殺した男」の比較分析とガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って』の読解、最終課題として比較分析小論文の執筆を行った。成果として、生徒は文学テクストの表象に対する分析スキルを習得し、その過程で共感と対象化を同時に体験することによる深い理解と多角的な現実認識を示した。また、戦争の表象自体に対する批判的な視点を獲得した。生徒は「表象不可能性」という視点を得、文学テクストを他者と議論することを通して、複雑な現実世界と表象との関係に対する理解を深めた。さらに、生徒自身で論点とテクストを設定して比較分析をしたことで独自の視点を獲得し、戦争の表象に対する思考の深化が見られた。

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