抄録
生体を構成する細胞は,さまざまな物理的刺激(メカニカルストレス)に応答して,増殖・分化・形態形成を制御する。近年,物理的刺激が感知された後の応答分子として,Hippoシグナル経路およびその標的因子である転写共役因子YAP/TAZが同定された。Hippoシグナル経路・YAP/TAZは,発生過程で臓器サイズを決定する重要な役割を担う一方で,腫瘍の悪性化にも深く関連している。肺癌においては,YAP/TAZが細胞外基質の硬度に応答して細胞増殖に寄与している可能性が高い。それに対し,悪性中皮腫においてはHippoシグナル経路の破綻が基軸となり,YAPの恒常的活性化を引き起こしている。YAP/TAZの活性化は,細胞外基質の再構築にも関与し腫瘍進展を促進している。