現在,様々な高等教育機関で取り組まれているいわゆるFD(Faculty Development)は,外国語教育の分野においては,各教員のプロフィールや所属機関のレディネスの問題により本質的な機能を望むのは困難である。本研究では,教員がICT(Informationand Communication Technology)の活用をきっかけに新しい発想を得ると同時に,内省を行うための場として互恵的なコミュニティを立ち上げ,およそ一年間にわたりコミュニティの運営・観察を行った。当初は熟達者からの知識伝達の場としてのみ機能した活動が,やがてコアとなるメンバーを得て徐々に相互に刺激を与え合うワークショップ型の活動へと変容し,さらには参加者が自律的な活動を行うプロジェクト型の活動へと運営形態を変えるに至った。しかしながら,対面での活発なやり取りに比べて,LMS(Learning Management System)やML(Mailing List)が,コミュニティの形成に対して有効に機能したとは言えなかった。また,参加者に対する外国語教育の変化に対する意識調査を行ったところ,彼らの内省を阻害する様々な葛藤要因が明らかになった。