高分子化學
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弾性ゴムに關すそ研究 (VI-VII)
第6報加硫ゴム-ヒドラヂン處理の工業的應用と加硫時に於ける促進剤の役割に就いて (I)
大北 熊一
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1949 年 6 巻 57Supplement 号 p. 367-370

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抄録

加硫ゴム中のチオケトン基を對象とせるケタヂン架橋を, 工業用配合ゴムに磨用し, 祉断時の強度を顯著に増大せしめ, 老化防止の効用を發揮させに。しかもこの處理の特徴は, 通常のゴム製品が時日の經過と共に劣化して行く過程を逆行するもので, 時日の経過につれ工, 徐々に, しかも緩慢にその強度を増して行く。又, この處理は加硫後直ちに行うべきであり, それに要するヒドラヂンヒドラートの損失は極微に止まる。よつて將來, この處理方法は工業的に用いられることと考えられる。一方, この研究過程中, 加硫ゴムに用いる健進剤の果す役割を知見した。即ち加硫時に硫黄を用いることなく, テトラメチルチウラム・ヂサルファイドと亞鉛華のみを用い, 比較的低温・短時間で加硫せる製品中にもチオケトン基が存在しており, それがヒドラヂン處理によつてケタヂン架橋の對象となつた。從つてこのようなチウラム系の促進剤はゴム加硫中に, 亞鉛華などの助剤の助けをかりて分解され, その硫黄が活性化してゴム分子の2重結合を攻撃し, そこにチオケトン基として附加し, その一部は加硫中に架橋に轉じ, 架橋に轉じ得なかつたチオケトン基は加硫後も残存していたと考えられる。この知見からヂフェニール・グワニヂン及びマーキャプト・ベンゾヂアゾール等も, 加硫中に於て硫黄を活性化させ, 比較的低温・短時間で, ゴム分子中にチオケトン基を附加し, これを架橋に轉ぜしめるものと考えられる。
註)研究用として今まで用いた加硫ゴムは, ゴムと硫黄のみの配合であり, 更にこの試料中から結合せざる硫黄をアセトンで抽出したいわゆる “ゴムと結合せる硫黄”, のみの試料であつたから, ケタヂン架橋の生成は, ゴム分子のミクロ運動の活撥さと共に顯著に, しかも比較的早期に現われたが, これら工業用配合ゴムでは, ゴム質以外に亜鉛華などの存在で, マクロ運動のみならずミクロ運動の自由性も又幾分束縛されており, そのためケタヂン架橋は緩慢に行われ, 時日の經過につれて徐々に強度の増加があり, その増加の割合が絶えず加硫ゴム自體の劣化を上廻り, こゝにケタヂン架橋が完成し終るまでは劣化現象が遅延するものである。原試料に於ける最初の祉斷力は, ヒドラヂン處理後40日目にはほヾ倍加され, 更にその強度はその後も徐々に増加の傾向をたどるのである。しかしながら特に “斷り” を述べるのは, このことは, 直ちに永久強度増加でもなければ永久劣化防止でもない。強度増大の趣限は必ず存在する羅であり, その期間が極め工永い故, 一見して劣化防止の機相を呈するに過ぎない。

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