2022 年 43 巻 p. 198-213
『すばる』に 保苅瑞穂の「ポール・ヴァレリー現代への遺言:わたしたちはどんな時代に生きているのか」と題する文学的エッセイ集が連載された。1964–1967年パリ大に留学した当初の保苅は、日本文化とはちがう、個人主義的で強靭なフランス文化に圧倒されたが、やがて、フランス、特にパリを「第二の故郷」と考えるほど好きになる。フランス人の精神的な強靭さは何に由来するのか問い続けた。それに答えてくれたのがヴァレリーの存在だった。帰国40年後ふとしたことからパリが懐かしくなり、職を辞してパリへ移り住んだ。そこで書いたのがこの自伝的作品である。わたしがここで指摘したいのは、この作品が書き手の「自伝記」素材をベースにヴァレリーの「伝記」素材を組み込んだデイスコース―auto/biographical writing―であるということ、それによって読者を納得させ、感動させてしまう文学的な効果をあげているという言語事実である。作品中の例によって見ていった。