ことば
Online ISSN : 2424-2098
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43 巻
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巻頭言
個人研究
  • 小林 美恵子
    2022 年43 巻 p. 3-20
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    小林(2020)で明らかにした高年世代の女性の文末形式の多様性について、疑念表明の表現としての「かしら」「かな」「かね」の使用の状況を考察した。その結果、「かしら」と「かな」の使用については話者と相手の関係・談話の場・話題などによって決定されていること、「かね」については、「かな」への中性化の中で、特に「語りかけ」の意図を含む場合に使われていることがわかった。

  • ―少年マンガの《オレ》《ボク》《ワタシ》《アタシ》―
    西澤 萌希
    2022 年43 巻 p. 21-38
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    日本語の自称詞には男性語、女性語とされる語があり、特定の自称詞を用いた発話は特定の性別の人物像と結びつく。しかしそれとは別に、例えば同じ男性語自称詞ボク、オレでも結びつく人物像の男性性の強弱が異なる、といった現象がある。この現象を説明するため、本稿は少年マンガのセリフの観察を通し、男性語の自称詞オレ、ボク、女性語の自称詞ワタシ、アタシを使用する人物の言葉づかいの特徴を分析し、類似性や相違性を明らかにする。

    分析の結果、男性語自称詞オレ、ボクの使用者と女性語自称詞ワタシ、アタシの使用者で言葉づかいに部分的な類似性が認められた。またオレ使用者とボク使用者では、言葉づかいにおいて女性語自称詞の使用者とどの程度類似するかが異なり、ワタシ使用者とアタシ使用者でも男性語自称詞の使用者とどの程度類似するかが異なることが明らかとなった。そのような類似性の異なりが前述の現象の一要因になっていると考察した。

  • 金 玉英
    2022 年43 巻 p. 39-56
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿では、日本語の依頼における二つのタイプの可能表現(①「〜ていただける」系、②「~できる」系)を考察対象とし、①は「聞き手の意志」を直接尋ねず、間接化して丁寧度を上げる役割を、②は依頼に必要な「話し手受益:聞き手与益」を含意させるための要素としての役割を各々が果たしているということを主張した。また、話し手が望む出来事(依頼内容)が実現するための聞き手側の2つの条件―「(潜在的)可能性」と「意志性」を提示し、①が十分な丁寧さを保ちうるのは、間接的に聞き手の「(潜在的)可能性」と「意志性」の両方を含めて問う形を取っているためであり、②が丁寧さに劣るのは、聞き手の「(潜在的)可能性」のみを尋ねる(「聞き手が実現可能なら、(聞き手は)行為を実行することが道理である」という含意を持ちやすい)形を取っているためであると主張した。

  • ―非例示用法を中心に―
    陳 玉
    2022 年43 巻 p. 57-74
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿は、連続テレビドラマを用いて、現代日本語の助詞「たり」の使用傾向を調査し、その非例示用法を中心に文脈の特徴と発話効果を考察したものである。まず「たり」の使用傾向を示した。並列使用か単独使用かで分類し、55%を単独使用が占めることを明らかにした。並列使用・単独使用を合わせた全体では例示用法が約6割を占めていたものの、単独使用の用例のうち、約7割が非例示用法ということがわかった。さらに、非例示用法の用例について、〈可能性〉〈意外性〉〈評価性〉に分けて、「たり」が用いられる文脈の特徴を提示し、また〈可能性〉〈意外性〉〈評価性〉とそれぞれの文脈との相互作用で生まれる発話効果を考察した。

  • 李 坤
    2022 年43 巻 p. 75-92
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿では主に中国語母語話者日本語学習者の「で」と「を」の誤用を手掛かりに、場所名詞をマークする「で」と「を」の選択条件と学習者の誤用要因を検討してみた。結果は以下のようになる。①移動動作が場所名詞の示す空間の中で行われる場合のみ、場所名詞は「を」と「で」の両方でマークできる。②主体の動作を前景化し、場所名詞が示す空間は動作が行われる場所であることを強調する場合、「で」をとる。主体の移動を前景化し、場所名詞が示す空間内での移動を強調する場合、「を」をとる。③学習者の誤用要因は主に母語の干渉により、場所名詞を「で」でマークするという過剰般化であると考えられる。

  • 何 秋林
    2022 年43 巻 p. 93-110
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿は、特定の人物の属性を叙述する中国語の“X有着Z的Y”と“X是Z的Y”を研究対象とし、談話機能の面から両構文の違いを考察し、同時に日本語の「Xは[Z+Y]をしている」と「Xは[Z+Y]だ」との対照の観点から、日中の構文間の違いについても検討するものである。具体的には、中国語の“X有着Z的Y”は談話の中で人物の属性を「描写」する機能を持つのに対して、“X是Z的Y”は談話の中で背景情報としての人物の属性を聞き手に「確認」させる機能を持つと指摘する。一方、日本語の両構文は談話機能において中国語のような違いが見られず、どちらの構文も「描写」と「確認」の機能を持ち、更に中国語の両構文が持たない「認定」の機能も持つ。日本語と中国語のこのような違いが生じている理由の一つとして中国語の連体修飾は既知性などの面でより厳しい制約を受けていることが考えられると主張する。

  • 「ほめられたら謙遜する」という定説を再考する
    髙宮 優実
    2022 年43 巻 p. 111-128
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    他者との会話において、自己を肯定的に評価する言語行動は、従来避けるものとされ(関崎2022)、先行研究においても、上下関係や親疎の度合いを問わず、ほめへの応答は圧倒的に回避型が多いという結果が出ている(大野2005)。「ほめられたら謙遜する」という定説は、日本語教育の現場において、ほめられた際の応答のしかたなどの指導にも影響を与えている。しかし安易な型の押しつけはステレオタイプに偏った会話を生むのではないだろうか。このため自然会話での使用実態に基づいた検証が重要であると考えた。

    本研究では、2つの会話コーパスを用いて、同等の立場にある大学生同士の自然会話を分析した。その結果、ほめに対する応答のタイプとしては、大野(2005)の研究結果どおり、「回避型」が最も多く見られたものの、「受け入れ型」も多いことが分かった。次に、回避型や受け入れ型で応答した会話のその後のやりとりを会話コーパス上で精査した結果、ほめられた側は①ほめられた直後にはほめを回避するが、その後ほめを受け入れる、②ほめられた直後にはほめを受け入れるが、その後ほめを回避するという2つのストラテジーを用いて会話を続けていることが分かった。これは相手との良好な人間関係を維持・構築するために行われているものと考えられる。

  • 方 敏
    2022 年43 巻 p. 129-146
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究では話題選択の様相、話題間のつながり及び話題導入のプロセスという3つの観点から事例分析に基づき日中知り合い同士の会話における「恋愛」の話題導入の異同を分析した。その結果、まず共通点については(1)会話実験の後半で「恋愛」が取り上げられやすい、(2)直前の話題に関連なく「恋愛」が導入された場合配慮表現の使用が必要とされるという2点がある。次に本研究で見た相違点は以下のような3点である。(1)日本語母語場面と比べ、中国語母語場面の事例では約半数の組が「恋愛」を選択した。(2)中国語母語場面の事例では直前の話題に言及された語句を取り上げ「恋愛」を導入したことが観察された。(3)日本語母語場面の事例では「恋愛」が導入されると当該話題をめぐる会話参加者の交渉が行われ、導入のプロセスがわりと長い。これに対して中国語母語場面では「恋愛」が導入されると即座に話題化される。

  • 儲 叶明
    2022 年43 巻 p. 147-164
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿は、中国語友人同士のオンラインやりとりにおける、遊びの叩き合いとしての「互怼(“Hudui”)」を取り上げ、それがどのように実践されているかを記述し、さらに「互怼(“Hudui”)」を通して中国語の対人コミュニケーションを論じるものである。その結果、「互怼(“Hudui”)」連鎖には、①“initial”と“counter”というペアとしてのやりとり、②記号資源の形態は異なるものの、“counter”の発話では、参与者が先行文脈における“initial”の発話をエスカレートして返していること、③対を為し、(絵文字、GIFを含む)多様な記号資源によって共同構築されている、という3点の特徴があることを明らかにした。また、中国の社会文化的コンテクストの中で日常的に生起するこうした「叩き合い」の背後には、「親しき仲こそ礼儀なし」という中国社会の対人コミュニケーションの規範性の存在の可能性があることを論じた。

  • 斎藤 理香
    2022 年43 巻 p. 165-179
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    山田わかについての代表的評伝研究である山崎朋子『あめゆきさんの歌:山田わかの数奇なる生涯』(1978)は、山崎自身が「底辺女性史」3部作の一つと銘打つ、いわゆるエリート女性史に対抗する作品とされる。一方、筆者は、1990年代以降の「反省的女性史」、すなわち戦時の女性も行動主体として戦争に積極的に加担したとする歴史観をふまえ、山田わかを母性保護を唱道する「分離型」のフェミニストとして考察し、また戦時フェミニズムの一翼を担ったことの責任と加害性にも言及してきた。日本の女性史およびフェミニズム研究において階級への視点は重要だが、「底辺」かどうかより行動主体としてのフェミニズムへのかかわり方のほうに注目すべきだろう。今後は、「キャメロン・ハウス」で同胞女性と施設スタッフの仕事をサポートした1900年代のわかの活動記録をさらに掘り起こし、同施設でわかと同様の活動を行った中国人女性に関する研究との比較も行っていきたい。

  • 遠藤 織枝
    2022 年43 巻 p. 180-197
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    東北大学入学から卒業までの寿岳章子の暮らしと思惟を、当時章子が家郷に送った手紙と日記から読み取る。1年生の章子は、大学の講義も演習も語学授業もすべてに興味を抱き、貪欲に学んだ。戦争末期の2年生は学徒動員で明け暮れた。最終学年の3年生は多くの古典文献を読み、室町時代の助詞をテーマに自他ともに認める質の高い卒論を書き上げた。この時期は「女は無知」、「目立たないコツコツした仕事が女の学問にふさわしい」などと言っていて、当時の女性劣位の思想からまだ解放されていない。

  • ―Reading “Paul Valéry’s Will to Us” as an Autobiographical Writing―
    れいのるず秋葉 かつえ
    2022 年43 巻 p. 198-213
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    『すばる』に 保苅瑞穂の「ポール・ヴァレリー現代への遺言:わたしたちはどんな時代に生きているのか」と題する文学的エッセイ集が連載された。1964–1967年パリ大に留学した当初の保苅は、日本文化とはちがう、個人主義的で強靭なフランス文化に圧倒されたが、やがて、フランス、特にパリを「第二の故郷」と考えるほど好きになる。フランス人の精神的な強靭さは何に由来するのか問い続けた。それに答えてくれたのがヴァレリーの存在だった。帰国40年後ふとしたことからパリが懐かしくなり、職を辞してパリへ移り住んだ。そこで書いたのがこの自伝的作品である。わたしがここで指摘したいのは、この作品が書き手の「自伝記」素材をベースにヴァレリーの「伝記」素材を組み込んだデイスコース―auto/biographical writing―であるということ、それによって読者を納得させ、感動させてしまう文学的な効果をあげているという言語事実である。作品中の例によって見ていった。

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