デスマス形での会話に、ときおり非デスマス形が混用されるスタイルシフトという現象を巡って、従来、心理的距離の短縮などの情意的機能の面から説明されてきた。一方で、情意的機能を果たさない非デスマス形も多く用いられるのはなぜなのか、未だ十分な説明はなされていない。そこで本研究では、デスマス形基調の雑談で用いられる非デスマス形の聞き手目当て性の弱さに着目し、これにより非デスマス形がどのような談話機能を果たしているのかを調査した。データには、11組の初対面二者間による雑談、計290分の音声データおよびその文字化資料を用いた。分析の結果、聞き手目当て性の弱い非デスマス形は、受け手の保有する情報に関する発話で用いられることにより、極力次のターンで受け手が何を言うべきかを制約せず、談話展開に非主導的に関与する機能を果たしていることがわかった。