抄録
米国のサブプライム問題に端を発した世界的金融危機は、1929年に始まる世界恐慌以来の危機といわれている。経済恐慌は資本主義に付きものであるとはいえ、今回の経済危機を資本主義に固有な周期性に還元することはできない。世界恐慌以後、資本主義は大きな転換を遂げてきた。今回の経済危機の根本的な原因は、1970年代以降に台頭してきた新自由主義政策の世界的な影響にあるといっても過言ではない。規制緩和と民営化を柱とする新自由主義は、資本移動や金融取引を自由化することによって生産に対する金融の優位をもたらしたが、それだけではない。教育・科学・福祉・医療といった社会領域にまで競争原理としての市場原理を浸透させることによって、近代社会の機能分化のあり方をも変化させてきた。産業資本主義の特質を、(1)生産を介した利潤追求と(2)機能分化した経済システムという点に求めるならば、現代の資本主義はポスト産業資本主義へと向かいつつある。