フォーラム現代社会学
Online ISSN : 2423-9518
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11 巻
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論文
  • 金 瑛
    2012 年 11 巻 p. 3-14
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は、アルヴァックスの集合的記憶概念を再考することにある。そこでまず行なったのが、アルヴァックスによる記憶(mémoire)と想い出(souvenir)の区別、集合的記憶と歴史の区別を検討することで、集合的記憶を定義し直すことである。集合的記憶は、時間的な連続性の流れとして定義され、言語活動・時間・空間という「枠組み」によって構成される。本稿では、従来あまり注目されてこなかった「環境(milieu)」という概念に着目することで、時間の「枠組み」を支える空間性について論じた。そしてそこでは、ノラの「記憶の場」という概念やモースの贈与論を参照軸に、「環境」と「場」の関係、「場」の変化による忘却の問題を論じた。また「環境」という観点から、個人的記憶と集合的記憶の関係、集合的記憶における忘却と想起についても論じた。本稿の論点は、「環境」が集合的記憶に対してもつ意義を説くことである。
  • 井上 烈
    2012 年 11 巻 p. 15-28
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は、感情管理という視点から、フリースクール(以後、FS)でのスタッフと子どもとの相互行為にみられる「共感」や「受容」(以後、共感的理解)という感情経験に焦点を当てて、FSスタッフの感情管理戦略の特質について明らかにすることである。共感的理解とは、学校教育における児童・生徒理解や心療医療におけるカウンセリングといった場面で用いられる専門知識で、教育・心理専門性に基づく概念であり、こういった関わり方は、FSでも同様に重視される。しかし、FSでの共感的理解は、教育・心理専門性から距離をとった「素人性」という感情規則に基づいて行われる。「素人性」とは、「自然」でポジティブな感情経験を志向するものであり、FSの相互行為の中で形作られる状況依存的な感情規則である。実際の子どもへの関わりの中で、スタッフは、「友情」や「母親や家族としての愛情」や「献身者としての愛情」を軸にした感情管理を行うことで、自らの関わりを「素人性」に基づいて解釈しており、FSにおける「素人性」は、「素人性」が「人間性」へと理念化され、実践知としての教育・心理専門性が隠蔽されることで維持されている。それはFSの独自性であり、そこにはスタッフの感情管理を維持する戦略性が見てとれる。FSにおける子どもへの「適切」な関わりは、「素人性」や「人間性」が求められる中で、教育・心理専門性を部分的に取り込みながら作られる曖昧な関わりといえる。
  • 三谷 はるよ
    2012 年 11 巻 p. 29-40
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は、家族やケア専門職としてではなく、ボランティアとして要援助者をケアする人、すなわちボランタリー・ケアラーはいかなる人々かを明らかにすることである。鈴木(1987)は、「ボランティア的行為」は、上位階層による「ボランティア活動部分」(Vパターン)と下位階層による「相互扶助的行為部分」(Λパターン)の合成によって成立するとする階層的二相性(Kパターン)論を提示した。階層的二相性論はボランティア的行為と社会階層の関連を示した重要な知見として知られているが、十分に検討されているとはいいがたい。また、現代の、広い地域に住む人々を対象にしたときに当てはまる理論であるのか定かでない。そこで本稿では、2010年の全国調査データを用いてKパターンの再検証を試みる。その際、(1)多変量解析によってKパターンが確認されるか、(2)「相互扶助的行為部分」の担い手はいかなる人々であるか、という2点に着眼する。分析の結果、第1に、ボランティア的行為と社会階層との関連において、Λパターン(下層一相性)の傾向がみられること、第2に、「相互扶助的行為部分」と考えられるボランティア的行為は、低収入層、低学歴層、女性、高齢層、長期地域居住者に担われていることが明らかになった。これらの知見から、地域共同体に根づいて暮らす下位階層の人々が、ボランタリー・ケアラーとして重要な役割を果たしていることが示唆された。
  • 西川 知亨
    2012 年 11 巻 p. 41-53
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    貧困問題に関しては、わが国でも長い歴史がある。だがとくに2006年以降、貧困が可視化され、多くの人びとが注目するようになったと言われている。本稿の目的は、2006年から2011年までの約5年間の現代日本における反貧困活動の展開過程を、行政・国家、市場社会、他の活動などとの関係性のなかで描き出すことにある。そのために、初期シカゴ学派の人間生態学/総合的社会認識の視点を活用する。それに加えて、ネットワーキングの関係性の変容の過程を描き出すために、対抗的公共圏の概念をもあわせて活用する。このことにより、人間性(human nature)がかかわる人びとの意識・意欲の観点から、時空間における圏域どうしの関係性をとらえることが可能になる。結果として、反貧困活動は、1.貧困問題が可視化され「公共圏の衰退が問題化」された段階、2.「派遣村」活動が広がり「対抗的公共圏の創出/創発」がなされた段階、3.派遣村活動がネットワーク重視の反貧困活動へと展開し、「対抗的公共圏が諸圏域との協同を強化」していく段階、4.形成したネットワークを活用し「対抗的公共圏がその目的の多様化を進展させ/変容させていく」段階、へと展開したことが明らかとなる。このような展開過程は、第1に福祉供給源の動態的展望、第2に社会的組織化における人々自身の立ち位置の同定、第3に社会学史を再検討した方法論の活用、などに関する含意を有している。
  • 高松 里江
    2012 年 11 巻 p. 54-65
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    これまで、アメリカを中心とする多くの研究は、性別職域分離は賃金格差の要因になることを示してきた。また、いくつかの研究は、技能とその指標となる制度をコントロールすることで、性別職域分離がどのようなメカニズムで賃金に影響するのかを明らかにしてきた。一方、日本ではいくつかの研究が性別職域分離は賃金格差の要因であることを示唆してきたが、対象となる職種が少なく、また、技能について十分に考慮されていないという課題があった。そこで本稿は、日本において、性別職域分離が日本型雇用制度と専門職制度のなかの技能とどのように結びつき、賃金に影響するのかについて分析を行った。分析には2006年および2008年に日本全国を対象に実施したJGSS調査を用い、対数変換後の時給を従属変数とする重回帰分析を行った。職種の女性比率から、男性職、混合職、女性職の3つに職種に分けて分析を行ったところ、(1)混合職と比べると女性職では賃金が高いこと、(2)女性職は混合職と比べて対物技能が高いために賃金が高いこと、(3)女性職の多くは専門職として対人技能が高いために賃金が高いことが示された。従来の研究では、性別職域分離は女性の地位を低める効果があるとされてきたが、本稿の結果からは、性別職域分離が対物技能や専門職制度を通じて女性の賃金を高めることが明らかになった。
特集Ⅰ 社会学が捉える現代資本主義―新しい『経済と社会』の可能性―
  • 荻野 昌弘
    2012 年 11 巻 p. 67-69
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
  • 正村 俊之
    2012 年 11 巻 p. 70-80
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    米国のサブプライム問題に端を発した世界的金融危機は、1929年に始まる世界恐慌以来の危機といわれている。経済恐慌は資本主義に付きものであるとはいえ、今回の経済危機を資本主義に固有な周期性に還元することはできない。世界恐慌以後、資本主義は大きな転換を遂げてきた。今回の経済危機の根本的な原因は、1970年代以降に台頭してきた新自由主義政策の世界的な影響にあるといっても過言ではない。規制緩和と民営化を柱とする新自由主義は、資本移動や金融取引を自由化することによって生産に対する金融の優位をもたらしたが、それだけではない。教育・科学・福祉・医療といった社会領域にまで競争原理としての市場原理を浸透させることによって、近代社会の機能分化のあり方をも変化させてきた。産業資本主義の特質を、(1)生産を介した利潤追求と(2)機能分化した経済システムという点に求めるならば、現代の資本主義はポスト産業資本主義へと向かいつつある。
  • 宇城 輝人
    2012 年 11 巻 p. 81-89
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    本稿は、現代資本主義の変容を考えるために、労働の雇用化という現象を歴史的かつ理論的に考察する。とりわけ、労働の現状を「雇用という規範の貫徹とその脆弱化」と捉え、その現代的意味と歴史的由来をとりあげる。具体的には以下の3点について議論する。(1)第2次大戦後に本格的に機能しはじめる「賃労働社会société salariale」の特性を確認しながら、そのなかで労働の雇用化がはたした機能を明らかにすることを試みる。雇用化が社会的移動のための均質空間の成立に寄与したことが、逆説的に現在の労働の不安定化をもたらす条件となることについて考察をくわえる。(2)雇用化の要である「労働契約contrat de travail」概念が19世紀末から20世紀初頭のフランスにおいて成立する過程を一瞥し、そこに生じた労働をめぐる問題設定の転換の意味を明らかにすることを試みる。そのさい、賃労働の本質とされる従属性(指揮監督関係)、労力と時間と報酬の関係づけ(マルクスの「抽象的労働」の図式)を中心に議論を展開する。(3)労働契約にもとづいて雇用化された労働の基盤となった「サーヴィス」の要素が、その後、資本主義の生産組織の変容につれて、典型雇用のような労働の枠組みから労働実態を逸脱させていく様相を検討する。労働関係における商取引的性格と家事労働的性格の増大を手がかりにして、雇用という規範にかたどられた労働の概念に生じつつある変化について考察する。
  • 間々田 孝夫
    2012 年 11 巻 p. 90-99
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    現代の消費社会は、消費文化が自律性と発展の方向性を持っているという前提に立たないと理解できない複雑なものになっている。消費文化の動向を理解するため、筆者は「消費の三相理論」として三つの理念型を設定する。第一の消費文化は効率主義的合理主義と量的拡大を志向するもの、第二の消費文化は他者志向的消費と反合理的消費を特徴とするもの、第三の消費文化は文化的価値の追求と社会的配慮に基づく消費を原則とするものである。これら三つの消費文化は併存しているが、第三の消費文化は現在活性化しつつあり、今後も活性化し、現在の消費社会の状況の下で活性化が望ましいものと考えられる。第三の消費文化は、一定範囲で小規模企業の活性化をもたらすと考えられ、またそれに伴って、都市のあり方、仕事や就職、グローバル経済などにもその影響が及ぶものと思われる。
特集Ⅱ 社会調査とデータ・アーカイブ
  • 轟 亮
    2012 年 11 巻 p. 101-102
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
  • 佐藤 博樹
    2012 年 11 巻 p. 103-112
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    データアーカイブの基本的な機能はマイクロデータを収集、整理、保存、提供することにある。それ以上に重要な機能は、社会科学におけるマイクロデータに基づく実証研究の「再現性」を担保する研究環境を提供することにある。日本では、毎年数多くの社会調査が研究者だけでなく、新聞社や政府など様々な機関で実施されており、調査大国とも言われる。しかし、調査データに基づく研究論文や報告書が刊行された後に、収集された調査データは保存されることなく散逸する場合が少なくなかった。その背景には、マイクロデータを収集、整理、保存し、それを再分析を希望する利用者に提供する組織が存在しなかったことがある。本稿では、マイクロデータを保存し、かつ再分析を希望する利用者にマイクロデータを提供することの社会的な意義とマイクロデータの収集、整理、保存、提供の作業を行うデータアーカイブの役割について説明するとともに、東京大学社会科学研究所の社会調査・データアーカイブ研究センターが運営するSSJデータアーカイブの現状と課題について紹介する。
  • 川端 亮
    2012 年 11 巻 p. 113-121
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    社会学者の中で「データ・アーカイブ」という言葉が聞かれるようになってから、控えめにいっても、10年は経過した。この間、研究には比較的利用されてきたが、教育への利用はそれほど進んでいない。そこで本報告では、教育に役立つデータ・アーカイブの条件をまず明らかにする。その条件は、以下の4つである。1)大学の専門教育だけでなく、教養教育やできれば高校生でも利用できること、2)データは学生に配布せずにWeb上におき、ダウンロードせずに利用できること、3)無作為抽出された大規模な調査データをもつこと、値の再割り当てなどのデータ変容機能を持ち、コントロール変数の使い方を学ぶために三重クロス表、重回帰分析ができること、そして4)学生はいつでも利用できることである。次にこれらの条件を満たすデータ・アーカイブSRDQとそれを用いた教科書を紹介する。その教科書では、まず優れたデータ分析が含まれる学術研究を読み、教科書の解説によって、その内容をよく理解したうえで、その研究のデータ分析をなぞることが無理なくできるようになっている。さらに、学生にデータ変容の試行錯誤の時間を十分に与え、誰にでもできる分析ではなく、自分にしかできない分析ができて初めて、社会調査のデータ分析に対する興味も湧くのではないかと論じた。最後に、そのような目的に使える教材を、研究者のデータ寄託によってもっと数多く開発していくことが課題であると指摘した。
  • 岩井 紀子
    2012 年 11 巻 p. 122-131
    発行日: 2012/05/26
    公開日: 2017/09/22
    ジャーナル フリー
    大阪商業大学JGSS研究センターは、「日本社会の現状と変容をとらえる」ことに焦点をあてて、社会科学の多岐にわたる分野の研究者の研究課題を集約して、2000年以降、数千人規模の全国調査を9回実施している。2003年以降は、アメリカのGSSタイプの調査を実施している韓国・台湾・中国のチームと協力して、共通モジュールを作成し、それぞれの全国調査に組み込むEast Asian Social Surveyプロジェクトにも取り組んでいる。2006年以降は、調査は隔年に実施しているが、ひとつの調査の準備段階から、日本語と英語のデータを整えて、国内外のデータアーカイブに寄託するまで、4年以上を要する。そのため、JGSS研究センターは、常に段階の異なる複数の調査に取り組んでいる。本稿では、ひとつの調査の流れを説明して、各段階で要する作業や課題を説明する。「JGSS公開データ」は国内外の大学・研究機関で利用され、利用件数は2012年1月末に2万5千件を超えた。社会学をはじめ、経済学、人口学、統計学、政治学、心理学、教育学、言語学、地理学、公衆衛生学、農学などの分野で活用され、JGSSデータを利用した著作は700を超え、国内外の社会科学の幅広い分野の研究・教育活動に寄与している。本稿では、公募設問や分析研究課題の応募者ならび公開データの利用者に求める研究上の作法についても述べる。JGSSが、大規模公開調査データを今後も提供するためには、研究資金の確保について研究者コミュニティからのサポートが不可欠である。
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編集後記
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