本論文では高校生の教育期待の分析をとおして、教育機会の不平等が生じるメカニズムについて考察をすすめる。不平等の生成に関して社会学では、階層間の学力差がもたらす不平等(1次効果)と、学力が同じ場合でも階層が異なることで生まれる教育選択の差異(2次効果)という2段階の過程が区別して扱われる。1次効果と2次効果を識別するための標準的な手法である反事実的アプローチをPISAの2003年調査のデータに適用し、日本社会における両者の相対的影響を推定する。さらに、同様のアプローチを海外のデータにも当てはめ、階層の総効果や1次効果と2次効果の相対的な優劣が、各社会の教育制度の特徴とどのように関係しているかを見ていく。
反事実的アプローチでは学力と教育選択性向のいずれか一方について階層差が除去された仮想状況を設定し、取り除かれた階層の影響が不平等全体にとってどの程度の重要性をもつかが評価される。分析の結果、日本の場合、階層間の学力差が除去された状況でも、階層が教育期待に対して与える直接的な影響が強く、2次効果が優勢であることが示された。国際比較では教育制度が高度に階層化されている社会において、階層の1次効果が大きくあらわれていた。階層化の度合と2次効果とのあいだには有意な共変動がなく、教育制度の階層性が高い社会では、不平等過程の比重が学力差をとおした間接効果の方向へと偏りがちであることが見て取れた。