フォーラム現代社会学
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論文
低水準の均衡
―職場における非正規雇用の存在と労働者全体の処遇水準―
郭 雲蔚
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2019 年 18 巻 p. 45-59

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抄録

本稿の目的は非正規雇用の比率を組織の特徴とみなして、職場における労働者全体の処遇水準にどのような影響をもたらすかを解明することである。これまでの研究では非正規雇用であることが個人のライフコースにもたらす影響が解明されてきたが、本稿では非正規雇用の比率を組織レベルの特性としてとらえ、職場における正規労働者も含めた労働者全体の処遇水準にもたらす影響を明らかにする。

そこで本稿では、「多様な就業形態に関する実態調査」の二次分析によって、職場における非正規労働者の存在が労働者全体の処遇水準に及ぼす影響を明らかにする。処遇水準を分析するために、年収と日本的経営の重要な構成要素として重視されてきた企業福祉の適用数を従属変数に加えてマルチレベル回帰分析を行った。

分析の結果から以下のことが分かった。非正規労働者の雇用比率の高さは正規労働者および非正規労働者の年収と企業福祉の適用数に負の効果がある。非正規労働者の比率が高いことは必ずしも企業内部における非正規労働者のための企業福祉の整備につながるわけではない。それに加え、非正規労働者の比率の高い事業所はそうでない事業所より正規労働者と非正規労働者の間の賃金および企業福祉の適用数の格差は小さい傾向が示された。

本稿の結果は非正規雇用関係の利用が全体の処遇格差の縮小につながるが、ただしそれは正規労働者も含めた全体処遇の低下と同時に起きる傾向があることを示唆した。

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© 2019 関西社会学会
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