フォーラム現代社会学
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18 巻
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論文
  • ―経済発展と所得格差の役割―
    池田 裕
    2019 年 18 巻 p. 3-17
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    自己利益の仮定によれば、社会経済的に不利な立場にある人ほど、福祉国家から利益を得る可能性が高いので、福祉国家を支持する傾向が強い。それゆえに、女性は男性よりも福祉国家に好意的であり、職業的地位が高い人ほど福祉国家に好意的でないと考えられる。しかし、福祉国家に対する態度の男女差と階級差の大きさは、国によって異なると報告されている。すなわち、社会経済的に有利な立場にある人が、そうでない人と同じ程度に福祉国家を支持する国もある。これは、自己利益の仮定が成り立つ国もあれば、そうでない国もあることを意味する。そのような国家間の差異を説明するのが、本稿の目的である。

    国際社会調査プログラム(ISSP)のデータを用いたマルチレベル分析によれば、自己利益の仮定が成り立つかどうかは、各国の経済発展と所得格差の水準に依存する。第一に、福祉国家への支持に対するジェンダーの効果は、一人当たりGDPが低い国ほど小さい。第二に、福祉国家への支持に対する職業的地位の効果は、ジニ係数が高い国ほど小さい。自己利益の仮定は、理論的には強力だが、実際には普遍的でない。自己利益の仮定の妥当性が高いのは、豊かで平等な国である。そのような国の福祉国家プログラムは、集団間の対立を引き起こす可能性が高い。

  • ―2015年SSM調査データを用いて―
    平尾 一朗
    2019 年 18 巻 p. 18-30
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    自営業と非正規雇用は代替性や類似性が指摘され比較されることが多い。しかし自営業者が退出後にどのような職業に就くかは不明であるし、代替性の議論も両者の類似性が強調されすぎている。本稿では自営業者と非正規雇用者の退出後の雇用形態を探索的に比較し類似点と相違点を示す。労働市場の二重構造論、自営業・非正規雇用の経験年数、家族構造と性別役割分業の影響を念頭に置き仮説が立てられた。2015年SSM調査(社会階層と社会移動に関する全国調査)データを用いた。分析対象は男女の非農業である自営業経験者と非正規雇用経験者である。離散時間ロジットモデルを用い、従属変数を自営業からの退出後の正規雇用、非正規雇用、無職への移動、非正規雇用からの退出後の正規雇用、自営業、無職への移動とした。分析の結果、類似点は第1に若年層を除けば二次的な労働市場における移動に制限されやすい、第2に自営業と非正規雇用の経験年数は直接的に正規雇用への移動に貢献しない、第3に出身階層の影響を受けにくい。相違点は第1に自営業者は子どもの成人後までをも含めた長期的な家族戦略、非正規雇用者は子どもの育児期までの短期的な家族戦略の影響を受けるかのようである、第2に自営業の経験年数の効果は非正規雇用への移動後に現れる。これらの相違点ゆえ仮に両者が代替的であっても自営業率の変化は非正規雇用率の変化よりも緩やかに生じるはずである。

  • ―役割期待・リスク・戦略―
    阿部 利洋
    2019 年 18 巻 p. 31-44
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    国際的な文脈におけるアフリカ人プロサッカー選手の活躍により、アフリカ人移民選手に注目するサッカー社会学の研究が増えてきた。こうした先行研究の多くには欧州市場を対象とし、そこにおける移民供出国と受け入れ国の間の経済格差を批判的に検討するアプローチを採用する傾向がみられる。いわば「新植民地的状況のなかで、欧州トップリーグの経済的繁栄のために若年選手が搾取される一方で、アフリカ地域のサッカー水準が停滞する」という認識である。それに対して、本論で取り上げる東南アジア・メコン地域のサッカーリーグでは、アフリカ人選手は独特のイメージと役割を与えられ、近年のサッカーブームが到来する以前からローカルリーグのゲームを支える存在であった。本論では、彼らがどのような環境のなかで、どのようなリスクを負い、どのような戦略をもってプロ生活を続けているのか、そして、それが当該リーグにどのような影響を与えてきたのか、質的データの検討を通じて考察する。結果として見えてくるのは、サッカー新興国であるがゆえに可能な生存戦略の展開と同時に、彼らがリーグを盛り立ててきたことの、いわば意図せざる結果として、新たなライバルを招き寄せるという課題に直面している現状であり、これらは従来の関連研究のなかでは十分に議論されてこなかった知見である点を指摘した。

  • ―職場における非正規雇用の存在と労働者全体の処遇水準―
    郭 雲蔚
    2019 年 18 巻 p. 45-59
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は非正規雇用の比率を組織の特徴とみなして、職場における労働者全体の処遇水準にどのような影響をもたらすかを解明することである。これまでの研究では非正規雇用であることが個人のライフコースにもたらす影響が解明されてきたが、本稿では非正規雇用の比率を組織レベルの特性としてとらえ、職場における正規労働者も含めた労働者全体の処遇水準にもたらす影響を明らかにする。

    そこで本稿では、「多様な就業形態に関する実態調査」の二次分析によって、職場における非正規労働者の存在が労働者全体の処遇水準に及ぼす影響を明らかにする。処遇水準を分析するために、年収と日本的経営の重要な構成要素として重視されてきた企業福祉の適用数を従属変数に加えてマルチレベル回帰分析を行った。

    分析の結果から以下のことが分かった。非正規労働者の雇用比率の高さは正規労働者および非正規労働者の年収と企業福祉の適用数に負の効果がある。非正規労働者の比率が高いことは必ずしも企業内部における非正規労働者のための企業福祉の整備につながるわけではない。それに加え、非正規労働者の比率の高い事業所はそうでない事業所より正規労働者と非正規労働者の間の賃金および企業福祉の適用数の格差は小さい傾向が示された。

    本稿の結果は非正規雇用関係の利用が全体の処遇格差の縮小につながるが、ただしそれは正規労働者も含めた全体処遇の低下と同時に起きる傾向があることを示唆した。

  • ―親子関係の再構築を目指して―
    笠井 敬太
    2019 年 18 巻 p. 60-73
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    本稿は小児がん経験者の親子関係に焦点をあて、小児がん経験者の自立観を検討するものである。医療技術の発展に伴い、がんは必ずしも死に直結する病気ではなくなりつつある。病を抱えながら生活を送る者も少なくないことから、現代においてがんなどの病気は、「治す」対象よりもむしろ、「共存する」対象であるといえる。また、がんやがん患者には社会的に構築されたイメージが付与されており、そのイメージのために、患者の親は患者に対して献身的なケアを行う。その一方で、患者本人は献身的な親の行為を必ずしも積極的に受け入れておらず、様々な不満や考え方の違いを抱いていた。このような状況に置かれている小児がん経験者は、親子関係の再構築の必要性を感じるようになる。

    しかしながら現代では、たとえ病気を抱えていなくとも、親からの自立は若者にとっての困難であるといわれている。さらに小児がん経験者は、社会的なイメージから受ける影響のために「保護される存在」であり、生活面で親の支援を受ける必要がある。このような環境を踏まえると、小児がん経験者が青年期の課題である「自立」を達成することは困難であるといえる。本稿ではこうした状況にある小児がん経験者に焦点をあて、小児がん経験者の自立観に迫った。そのうえで、「保護される存在」であるために達成できる小児がん経験者の〈自立〉の形を示した。

  • ―施設内における「男子性」の凝縮に着目して―
    三品 拓人
    2019 年 18 巻 p. 74-87
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    本稿は「なぜ児童養護施設において子ども間の暴力が多発しているとされるのか」を明らかにした。子どもの身体的暴力を男性性の一種である「男子性」との関連から検討した。

    児童養護施設において発生する子ども間暴力が深刻な問題として提起されてきた。先行研究においては、施設内で子ども間暴力が多く存在していることは複数の調査や語りから実証されているが、暴力が発生する文脈や状況を詳細に明らかにした研究は少ない。そこで、児童養護施設において参与観察調査を行うことによって、小学生の男子間で起きる身体的暴力が発生する文脈を把握した。

    分析では、4つのタイプの身体的暴力を提示した。制裁的な暴力、ケンカにおける暴力、遊びやふざけ合いでの暴力、やつあたりとしての暴力である。身体的暴力は子ども間で適切な態度や振舞い方などを他者に再確認させる資源、ケンカの最終的な手段、遊びの一種などとして活用されていた。

    以上から、身体的な暴力行為が小学生男子にとっていかに重要な他者とのコミュニケーション手段になっているか明らかになった。身体的暴力を他者とのコミュニケーションの資源として活用できる指向性を「男子性」として捉えられる。このような「男子性」は施設のみならず、広く社会にも存在するだろう。ただ、児童養護施設において小学生男子18人が共同で生活することにより「男子性」がより凝縮された形で維持され、発揮されている。

  • ―SSM調査データによる分析―
    山本 耕平
    2019 年 18 巻 p. 88-101
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    女性の四年制大学進学率の上昇とともに、従来は女性比率が低かった分野に進学する女性も増加し、大学進学女性の専攻分野は多様化している。本稿はこうした専攻分野の多様化の背景を探るために、出身階層と専攻分野の選択との関連について、調査データにもとづいて検討することを目的とする。女性の比率が低い分野を選択するのはどのような女性であるかについて先行研究の知見をまとめ、女性の専攻分野選択には地位表示機能への投資と地位形成機能への投資という2つの投資行動が含まれており、出身階層の高低と学力によってどちらに投資をするかが分岐する、という統合市場モデルを提示し、2005年・2015年SSM調査データによって検証をおこなった。専攻分野を従属変数、コーホート、出身階層と親の学歴、15歳時の家庭の資本、中3時の学力と出身高校のランクを独立変数とする多項ロジスティック回帰分析の結果、教育・理工・医学への進学はブルーカラー出身であることと、社会科学への進学は非大卒層出身であることと関連しており、統合市場モデルを一部支持する結果が得られた。近年の大学進学女性における専攻分野の多様化の一部は、もともと人文系以外の専攻に進む傾向が強かったマニュアル層・非大卒層出身者が増えたことによる、ということが示唆された。

特集 アートと社会/地域の現在―瀬戸内から考える
  • ―島嶼部を中心として―
    藤井 和佐
    2019 年 18 巻 p. 102-110
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー
  • ―直島における展開過程の検討―
    宮本 結佳
    2019 年 18 巻 p. 111-121
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    本稿で取り上げる瀬戸内を舞台とする取り組み「瀬戸内国際芸術祭」をはじめとして、現在各地で数多くの芸術祭、ビエンナーレ、トリエンナーレが実践されており、アートと地域のつながりの深化が指摘されている。このような社会状況をふまえ第69回関西社会学会大会シンポジウム「アートと社会/地域の現在―瀬戸内から考える」ではアートと地域の関係性に焦点を合わせて議論が行われた。本稿では、第一にアートと地域社会の持続可能な関係性はいかにして可能かという問いについて検討を行い、第二に取り組みが長期にわたって行われる中で今後、制作当時にはまだそこにいなかった人びとに対して誰が、何を伝えていくことができるのかについて検討を行った。まず、男木島の事例を通じて場所に固有な作品の特徴を確認した。続いて、1990年代から20年以上にわたって取り組みを続けてきた直島における複数の事例を通じて、アートと地域の関わりの内実を分析し、アートと地域の持続可能な関係がどのように構築されていったのかについて検討した。「アートと地域の持続可能な関係の構築」という点について直島の事例から得られる示唆は、作家と住民双方の場所への意味づけの重ね合わせの重要性および住民自身による生活実践の可視化の可能性である。また今後、制作当時にはまだそこにいなかった人びとに対して誰が、何を伝えていくことができるのかという点について得られた示唆は、次世代の人びとと作品をつなぐキーパーソンの存在の重要性である。

  • ―「社会化する芸術」の現場から―
    吉澤 弥生
    2019 年 18 巻 p. 122-137
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    「アートプロジェクト」はアーティストが中心となって地域の人々などと共に制作・実施するもので、2000年以降日本各地に広がった現代アートの一形式だ。里山の廃校、まちなかの空き店舗などを舞台に多様な形態で行われている。

    これらの広がりは、アーティストが自らの表現と発表の機会を追求する動きと、地域活性、産業振興、社会包摂などの社会的文脈でアートを活用しようとする文化政策の動きが合致したことで生まれた。なかでも国際芸術祭は地域活性の核として期待されている。そして実際、地域の特性や課題に向き合いながら、固有の資源を発掘し、新たな価値を生み出したプロジェクトもある。こうしたアートの手段化には批判もあるが、多様なアクターの協働によって日常生活の中からアートが立ちあがる過程を明らかにすることがまず重要である。

    一方で現場には、プロジェクトの参加に関する住民の合意形成、現場を支えるスタッフの長時間労働、働き方と就労形態の不合致、低賃金、社会保障の不在といった問題とキャリア形成の困難が存在する。これは日本社会全体にも見られる「自発性」「やりがい」を盾にした低賃金・無償労働の圧と共通するものだ。

    今後はこれらの問題と向き合いつつ「なぜアートなのか」を問い続けながらのプロジェクト実施が望まれる。2020年に向けて文化政策におけるアートの手段化は一層進むが、成果主義では測れない価値を表現する評価方法も必要だ。

  • ―G・ジンメルのアイデアを参考に―
    徳田 剛
    2019 年 18 巻 p. 138-148
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    本稿では、アートプロジェクトにおける地域とアートの“幸福な関係”がいかにして可能かについて、ドイツの社会学者ゲオルク・ジンメルのアイデアを参照しつつ検討する。アクターとしての地域とアートは、持続可能性の観点からも「外部者との連携・協働」を必要とするが、その一方で自らの営みにとってどのような意義(手段的価値)を持つかで相手方を評価しがちである。そのために両者の連携・協働には、「地域がアートを/アートが地域を利用する」関係に陥るような原理的な危険性を内包している。

    そこで、地域とアートの関係において相手を手段的に位置付ける発想を軽減する関係原理として、ジンメルの以下の3つのアイデアを参照する。1)地域でのアート活動が双方にとって「目的であり同時に手段であるような」性質を帯びたものにする工夫(「とって」論)、2)地域でのアート制作等の現場を、「目的-手段系列」を無効化するような「社交空間化」としてデザインする工夫(「社交」論)、3)地域とアートの両者の気質や活動原理を把握し関係調整を行うキュレーターの役割遂行(「よそ者論」)の3点を、アートプロジェクトが円滑に進行するうえでの3条件として提示する。

  • ―ソーシャル時代の芸術作品―
    近森 高明
    2019 年 18 巻 p. 149-154
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー
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