フォーラム現代社会学
Online ISSN : 2423-9518
Print ISSN : 1347-4057
特集 社会学は死んだのか?
戦後日本の社会学史から
井上 俊
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2020 年 19 巻 p. 36-47

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抄録

日本の社会学は、第二次世界大戦後、1950~60年代にかけて急速に発展した。当時の主流は農村社会学と家族社会学、そして学説研究であった。戦後、GHQの方針もあって、日本社会の近代化・民主化が大きな課題とされ、社会学はとくに「いえとむら」に残る前近代性の実態解明と克服に貢献することを期待された。その意味で、当時の社会学には実践的・政策学的な関心が強かった。学説研究に関しては、米国社会学の影響が強まり、パーソンズやマートンらの構造-機能主義、リースマンやミルズらの大衆社会論などが紹介され、広く受け入れられた。

1970年代に入ると、それまで大きな影響力を持っていた構造-機能主義とマルクス主義がともに弱体化し始め、シンボリック・インタラクショニズムや現象学的社会学など多くの新しい観点が登場し、研究テーマも多様化する。大衆社会論を引き継ぐような形で情報社会論、消費社会論、脱工業社会論なども盛んになり、80年代にはいわゆるポストモダニズムの潮流が形成され、90年代以降のグローバル化の進展とあいまって、「(欧米)近代市民社会の自己認識の学」としての社会学のあり方を脅かす。一方、80年代以降やや敬遠され気味であった実践的・政策学的関心は、バブル崩壊、オウム真理教事件、自然災害と原発事故などを契機に再び活性化した。

日本の社会学のこうした歴史と現状を踏まえ、ブラヴォイの「パブリック社会学」論やジャノヴィッツの「工学/啓発モデル」論を参照しながら、社会学的知の多様性と社会学のディシプリンとしての曖昧性の擁護について最後に触れたい。

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