現代日本社会では子育てをめぐって、社会全体で支えるのが望ましいとする理念と、もっぱら親が担うのが望ましいとする理念の相剋があるという。そして、前者の理念を具現化した子育て支援の現場で働く人々ですら、この相剋から自由ではないという。では、子育て支援を利用する親どうしの場合はどうだろうか。本稿は、子育てひろばで子どもが「良からぬ」ふるまいをしたときに、誰がいつどのように注意するのかを詳らかにすることで、この問いに取り組む。検討の結果、次のことが明らかになった。よその子に対する注意は、親が注意する前は、子どものふるまいが危ないものでもなければ、弱いものに留められていた。また、子どものふるまいをはっきりと悪く評価する注意は、親が注意するまで避けられていた。そして、すでに親が注意して事態を収拾した後になされるそれらの注意は、むしろ子どもの将来的なふるまいに向けた注意である。しつけと呼んでもよい。母親たちはこうして、よその子を注意することを通じて子育て、あるいは子どもの社会化をサポートし合う、すなわち子育て仲間を「している」のである。よその子を注意することはできるが、それは親の意向を慮ってなされる必要がある―先ほどの2つの理念は、子育てひろばの母親たちの注意をめぐるふるまいにおいて、相剋しているというよりも絡まり合いながら併存している。