フォーラム現代社会学
Online ISSN : 2423-9518
Print ISSN : 1347-4057
論文
少女時代の欠如と埋め合わせ
―中国のロリータファッション文化をめぐる生活史から―
馮 可欣
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2024 年 23 巻 p. 3-16

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抄録

本稿では、中国におけるロリータ文化の少女性のもつ意味を、中国の少女時代のあり方とそれをとりまくジェンダー秩序を考慮に入れて明らかにする。日本と中国の従来の研究では、少女性はロリータ文化の本源的な特徴とされている。日本において、妻・母などの役割を免れるモラトリアム期間というイメージと結びついているロリータ文化の少女性は、成長の拒否と少女時代の永続を意味するとされる。一方中国における少女時代は個性を抑圧し、少女たちを男性に合わせて管理する期間であり、ロリータ文化が持つ少女性は日本とは異なる意味を持つと考えられる。そこで本研究はロリータ文化を愛好する中国の成人女性16人に生活史インタビューを行い、以下の知見を得た。まず、中国の中等教育段階では、男性規準の能力観が支配的であり、女性的な身体は抑圧される。一方、学校にも浸透している消費文化は、少女に美しさを同時に期待する。こうした女性性に関するダブルバインドにより、彼女たちは少女時代の欠如を感じている。そして、成人女性への移行の中で、女性的な身体は社会的に要請されると同時に、女性によっても自発的に追求される。それは少女時代の欠如の埋め合わせとして捉えられている。そこで、中国のロリータ文化の少女性は、男性規準の能力観からの脱出と女性性の回復と意味づけられながら、成人女性をとりまく美しさの規範との主体的な交渉のツールでもあると結論づけられる。

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