フォーラム現代社会学
Online ISSN : 2423-9518
Print ISSN : 1347-4057
特集Ⅰ 被爆がもたらす〈意味〉の現在―戦争体験の社会学という視座―
被爆地からつむぐ言葉
森田 裕美
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 8 巻 p. 5-12

詳細
抄録

1945年8月6日、広島に投下されたたった一発の原爆は、いったいどれだけ人を苦しめたら気が済むのだろうか-。被爆地・広島の新聞記者として、六十数年を経た今なお続く苦しみや悲しみに触れ、「被爆体験」が発する今日的意味を問い続けている。世の中の事象に、ある切り口から光を当て、文字にし、短い記事の中で分かりやすく伝えるのが新聞記者の仕事だ。ただ、焦点を絞れば必ずあふれてしまう「断片」があり、ある言葉に「集約」すれば、見えなくなる「本質」もある。数々の「声」は、伝える過程で、「被爆者」や「ヒロシマ」などの言葉に集約されていく。伝える上で避けられない作業でありながら、原爆がもたらしたとてつもない「人間的悲惨」に迫れば迫るほど、表現しきれないもどかしさに苦闘する。しばしば和解の象徴として語られる被爆者は、本当に「憎しみを捨てている」のか-。被爆者でなければその記憶は継承できないのか-。記者が抱える日々の葛藤を通じ、「被爆体験」を継承する可能性を考える。

著者関連情報
© 2009 関西社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top