本稿の目的は、環境問題の両義性を明らかにすると同時に、その背景となる不確実性と規範性の相互作用を明らかにすることである。また、こうした現状を踏まえて社会学が果たすべき役割について検討した。まず、社会問題としての環境問題の特徴として、(1)因果関係を構成する要因の拡散、(2)事実関係の不確実性、(3)不可逆的変化への危惧、が存在することを指摘した。このため、不完全情報に基づいて社会的な意思決定を行わざるをえず、逆説的に規範性を帯びてくる。その結果、環境言説には抑圧と解放という両義的な性格が存在する。前者の事例として、環境問題に対する個人の当事者意識をとりあげ、問題そのものへの責任が相対的に少ないにもかかわらず、「一人一人のこころがけ」といった規範が存在することの問題点を指摘した。後者の事例として、中山間地の地域再生などの取り組みをとりあげた。そこでは環境言説を取り込むことによって、地場産業の活性化など多様な便益が発生していることを市民風車事業などの事例にもとづいて明らかにした。以上のような両義性と同時に、環境リスクに対する反証可能性の問題ゆえに環境言説そのものを全否定することは困難であると指摘した上で、社会学が果たしうる役割について考察した。環境言説に伴う同調圧力や権力性を批判するという従来の役割に加えて、社会に対して能動的にかかわる社会実験的な役割を指摘した。
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