教育学研究
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米国エッセンシャル・スクール連盟の学校改革支援活動 : 「コミュニティとしての学校」理念を中心に
後藤 武俊
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2002 年 69 巻 2 号 p. 205-214,315_3

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抄録

米国における学校の官僚制的統制に代わる制度構想として、今日注目されているのが「コミュニティとしての学校」の構築である。米国のエッセンシャル・スクール連盟(CES)の活動は、それを構築するものとして知られている。しかし、CESにおける「コミュニティ」とは何なのか、また、いかなる活動がそれを構築しているのか、などについて具体的に検討されることは少なかった。本稿の目的は、CESの改革支援活動の内実(学校の組織・運営、カリキュラム、学習評価)に関する検討を通して、その背後にあるコミュニティ観を明らかにすることである。第一章では、CESの設立と発展の経緯を概観した。CESはサイザ-(Theodore R.Sizer)がその著書『ホレスの妥協』で示した改革の指針、共通原理をもとに学校改革を支援する組織である。共通原理における学校の小規模化や、生徒の学習の熟達度を評価する「学習発表」という評価方法の導入は、彼の校長や教師としての経験から導き出されたものであった。1984年にCESが設立されて以来、2000年までに約1200校の加盟校を得るに至っている。第二章では、CESの活動内容を分析し、その今日の改革運動における意義を検討した。その活動の要点は、第一に、知性を重視するカリキュラムとそれに関係した学校の組織・運営の方法、評価方法を開発してきたことである。第二に、以上のような実践を学校間、教師間の協働形成を中心とするワークショップ活動によって普及させていることである。そして第三に、加盟校に対するアクション・リサーチの過程において研究者と加盟校の人々が情報を共有し、共に改革を推し進めていく協働的探究(collaborative inquiry)を行っていることである。このようにCESの活動は、改革手法の相互連関だけでなく、多元的な協働、すなわち教師間の協働、加盟校間の協働、改革支援組織と学校との協働という特徴を持っている。これらを総合的に推し進めている点に、今日の改革運動におけるCESの活動の意義を見出すことができる。ここで問題となるのは、以上の活動が「コミュニティとしての学校」という考え方とどのように関係しているのか、ということである。そこで第三章では、サイザーの思想の分析を通して、共通原理における「コミュニティとしての学校」理念を明らかにした。サイザーは学校の小規模化を親と教師の協働、および教師同士のコミュニティの構築を促すものとして位置づけていた。また、生徒に対しては、生徒同士の協働を通して「学習者のコミュニティ」の一員になることを期待していた。さらに、サイザーは「学習者のコミュニティ」という概念を提唱し、教師と生徒がともに「知性の習慣」(=探究を導く知的能力)を用いることや、学習の目的と手段のあり方が常に議論に開かれていることなどをその特徴としていた。以上のようなサイザーの思想を踏まえるなら、CESの「コミュニティとしての学校」理念は、小規模な学校において「学習者のコミュニティ」を構築することと見なすことができる。

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