杏林医学会雑誌
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総説
肺動脈性肺高血圧症の遺伝解析の現状と問題点
相見 祐輝片岡 雅晴水見 彩子佐藤 徹吉野 秀朗岡 明小野 正恵蒲生 忍
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2013 年 44 巻 2 号 p. 43-51

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抄録

 肺動脈性肺高血圧症Pulmonary Arterial Hypertension(PAH)は肺動脈の内膜や中膜の肥厚を原因として肺動脈圧が上昇し,右心不全を起こす生命予後不良の難治性の呼吸器・循環器疾患である。PAHは膠原病やその他の疾患に合併して発症するものが多いが,約1/3には特定の原因が見いだせない特発性の症例IPAHや家族性発症が見られる症例FPAHが存在する。1997年にFPAHの原因遺伝子が2番染色体上に,その後の国際的な協同研究等で2型骨形成タンパク受容体Bone Morphogenetic Protein Receptor type II(BMPR2)遺伝子の変異,さらに近年ではエキソン欠失が発見され,遺伝的背景の重要性が指摘されてきた。現在ではFPAHの約60%,IPAHでは10-40%にBMPR2の変異が報告されている。杏林大学ではPAH患者のフォローアップが常時行われており,我々はPAH患者のBMPR2遺伝子の解析をPCR-ダイレクトシークエンス法とMultiplex Ligation-dependent Probe Amplification法を組み合わせた方法で進めてきた。その結果,12種類のBMPR2の遺伝子変異と2種のエキソン欠失を検出し,エキソン欠失では切断点を明らかにした。この変異の頻度は他からの報告と比べ,特に低いものではない。ただ,現在の解析手法では転写制御領域やスプライシング変異等の解析はほとんど手付かずであり,まだ変異を見落としている可能性や変異の評価についての問題点がある。次世代型のシークエンサー等を利用しより広い範囲の解析を行い,in vitroの実験系で検証し,実用的な診断システムとして確立する必要がある。

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© 2013 杏林医学会
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