2023 年 54 巻 2 号 p. 59-64
糖尿病患者には下肢筋力低下やバランス障害などの運動障害が生じ,その原因は糖尿病性末梢神経障害や筋実質の障害に求められてきた。しかし,近年,糖尿病患者や糖尿病モデル動物において大脳皮質運動野や皮質脊髄路といった身体運動を制御する中枢神経系(運動系)に異常が生じることが示され,運動障害の新たな要因として注目されている。また,運動系の異常を改善する効果的なリハビリテーションは明らかにされていなかったが,最近の糖尿病モデル動物を対象にした研究によって,スキル運動(運動学習を伴う全身運動)が赤核脊髄路に可塑的変化を誘導し,それが損傷した皮質脊髄路の代償路として機能することによって,一部の運動機能が回復することを明らかになった。本総説では糖尿病による運動系の障害の病態とそのリハビリテーション開発の可能性について自らの研究成果をもとに論述する。