杏林医学会雑誌
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総説
鼻腔炎症に起因する脳組織及び腸内細菌叢の変化
石井 さなえ浅野 妃南大﨑 敬子
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2023 年 54 巻 3 号 p. 147-158

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抄録

慢性的な鼻腔の炎症は認知症や精神疾患などの脳疾患を引き起こすと考えられるが,その機構は明らかではない。私たちはこれまで,鼻腔にリポ多糖(LPS)を投与し炎症を起こしたマウスの脳組織及び腸内細菌叢について解析を行ってきた。鼻腔炎症の急性期には,LPS投与12時間後から末梢炎症細胞が嗅球に浸潤し炎症性サイトカインを産生したが,72時間後には嗅球からほぼ消失した。慢性鼻腔炎症を起こしたマウスでは10週間以内に嗅球は萎縮し,特に房飾細胞の樹状突起が退縮したが,炎症収束に伴い回復した。さらに,慢性鼻腔炎症を起こしたマウスでは,特に雄において腸内細菌叢のディスバイオーシスが見られた。今後は,鼻腔炎症による嗅球の損傷が他の脳領域に及ぼす影響とその機構,嗅球に浸潤した末梢炎症細胞の由来と排出機構,鼻腔炎症が腸内細菌叢のバランスを乱す機構に着目して,鼻腔炎症が脳疾患を誘導する分子・細胞機構の解明を目指す。

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