杏林医学会雑誌
Online ISSN : 1349-886X
Print ISSN : 0368-5829
ISSN-L : 0368-5829
54 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 吉本 恵理, 櫻井 裕之, 山賀 貴, 野﨑 江里子, 阿部 展次
    2023 年 54 巻 3 号 p. 121-132
    発行日: 2023/10/06
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

    胃癌腹膜転移再発の予後は悪く,原因として腹腔内や管腔内に遊離した癌細胞の存在が指摘されている。その予防法として低張液を用いた腹腔や管腔内の洗浄が有望であるという報告は多い。しかし洗浄後に生存した癌細胞が悪性度の高い形質に変化することが懸念されるため,胃癌細胞株MKN7(高分化),MKN74(中分化)を蒸留水に10 分間,MKN45(低分化)を5分間暴露させ生き残った細胞株を再培養し,増殖能,浸潤能,薬剤感受性について検討した。MKN7,MKN45は増殖能に有意差はなかったが,MKN74 は48時間で有意に増加し,72 時間で有意差はなくなった。浸潤能は,MKN74,MKN45で有意な低下があり,MKN7では上昇する可能性が示唆された。薬剤感受性に有意差はなかった。今回,蒸留水暴露により,高・中分化腺癌であるMKN7,MKN74では,悪性度が高くなる可能性がみられるものもあったが,低分化腺癌であるMKN45では,増殖能,浸潤能,薬剤感受性に変化を来さなかったことは朗報であったと考えられる。

症例報告
  • 前園 知宏, 河合 桐男, 齊藤 裕史, 中元 康雄, 下山田 博明, 藤原 正親, 長島 文夫, 古瀬 純司
    2023 年 54 巻 3 号 p. 133-138
    発行日: 2023/10/06
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

    18年前に膵頭部癌に対して膵頭部十二指腸切除術および門脈合併切除術を施行し,高分化型管状腺癌,pStageⅡB(T3N1M0)の病理診断を得た。術後補助療法として6か月間のゲムシタビン(GEM)投与後,経過観察となった。術後4年後に左肺下葉,その2年後に右下葉,更にその2年後に左上葉に肺結節を認め,いずれも切除術により膵癌肺転移と診断された。以降,10年間は再発無く,初回の肺転移再発より14年間の長期生存を得ている。膵癌術後遠隔転移再発例に対する標準療法は全身化学療法であるが,初回再発が肺転移のみである場合は他臓器転移再発よりも予後が良好であることが報告されており,実臨床では肺切除が検討されることがある。本症例は3回の単発肺転移再発に対して3回とも外科切除のみで長期の良好な経過を得ている稀な一例と考えられる。

  • 河合 桐男, 前園 知宏, 池田 哲也, 下山田 博明, 藤原 正親, 菅間 博, 長島 文夫, 廣中 秀一
    2023 年 54 巻 3 号 p. 139-145
    発行日: 2023/10/06
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

    胸腺腫は希な疾患であり,難治性口腔扁平苔癬(Oral Lichen Planus, OLP)を稀に随伴する。胸腺切除術によるOLPの症状緩和は限定的であり,切除不能胸腺腫においては全身化学療法による加療となるが,OLPに対する症状緩和の報告は殆どない。症例は既往歴に特記のない40歳代の女性。健診で偶発的に縦隔腫瘍を指摘され,胸腺腫Stage IVaの診断を得た。抗AChR陽性の無症候性の重症筋無力症を随伴していたが,口腔内に特記所見を認めなかった。胸腺腫切除術を行ったが再発を繰り返し,計4回の放射線治療を施行したものの病勢進行し,ステロイド局所療法に抵抗性の難治性OLPを発症した。切除不能胸腺腫にプラチナ系とアントラサイクリン系併用療法による全身化学療法を導入したところ,胸腺腫の病勢制御に加えて難治性OLPの改善を得た。以降OLPの再燃なく,胸腺腫手術から凡そ8年の生存期間を得ている。

総説
  • 石井 さなえ, 浅野 妃南, 大﨑 敬子
    2023 年 54 巻 3 号 p. 147-158
    発行日: 2023/10/06
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー

    慢性的な鼻腔の炎症は認知症や精神疾患などの脳疾患を引き起こすと考えられるが,その機構は明らかではない。私たちはこれまで,鼻腔にリポ多糖(LPS)を投与し炎症を起こしたマウスの脳組織及び腸内細菌叢について解析を行ってきた。鼻腔炎症の急性期には,LPS投与12時間後から末梢炎症細胞が嗅球に浸潤し炎症性サイトカインを産生したが,72時間後には嗅球からほぼ消失した。慢性鼻腔炎症を起こしたマウスでは10週間以内に嗅球は萎縮し,特に房飾細胞の樹状突起が退縮したが,炎症収束に伴い回復した。さらに,慢性鼻腔炎症を起こしたマウスでは,特に雄において腸内細菌叢のディスバイオーシスが見られた。今後は,鼻腔炎症による嗅球の損傷が他の脳領域に及ぼす影響とその機構,嗅球に浸潤した末梢炎症細胞の由来と排出機構,鼻腔炎症が腸内細菌叢のバランスを乱す機構に着目して,鼻腔炎症が脳疾患を誘導する分子・細胞機構の解明を目指す。

特集『医学部基礎医学系教室の最前線─第2回 顕微解剖学教室』
特集『医学部基礎医学系教室の最前線─第3回 法医学教室』
feedback
Top