杏林医学会雑誌
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特集「医学部基礎医学系教室の最前線 第4回 病理学教室」
PartⅡ.がん病理診断の潮流〜形態診断からゲノム・エピゲノム統合診断へ〜
里見 介史柴原 純二
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2023 年 54 巻 4 号 p. 227-234

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抄録

がん診療において,病理診断を担う病理医の責任は重い。現代では病理診断とは,種々の診断技法を駆使した総合的な判断と言え,近年,病理診断体系が大きく変化した脳腫瘍の病理診断について,当教室での取り組みとともに紹介する。
脳腫瘍分類は,形態学的特徴に基づいていたが,より厳格な分類の要求のため,遺伝子と形態の統合診断が取り入れられ,さらにDNAメチル化分類も採用された。脳腫瘍の腫瘍型は200を越え,その多くで分子遺伝学的検索が要求されるが,日常の病理診断のなかで全ての検索項目に逐一対応するのは現実的ではない。形態学的検索を優先し,真に必要とされる項目に絞って分子遺伝学的検索を行なっている。
DNAメチル化分類は,統合診断精度の改善に寄与する。ドイツがんセンターはDNAメチル化分類推定のためのウェブツールを公開しているが,実臨床上の限界もあり,非線形次元削減法であるt-distributed stochastic neighbor embeddingによるDNAメチロームの可視化は統合診断に寄与する。
現状では分子遺伝学的解析の品質や解釈は,病理医が全責任を負っている。精細な脳腫瘍分類の追求は絶対的に必要不可欠な診療上の要請であり,最低限の分子遺伝学的解析は臨床検査として保険診療下に行われるべきで,臨床医が必要とするタイミングで必要な情報を提供し,遅滞なく治療が行われる体制の整備が求められている。

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