抄録
体罰やいじめなどの学校で発生する暴力は、世界に共通して起こっている課 題である。なかでもケニアでは、学校への放火が恒常的に発生してきたという 特徴がある。学校放火の要因は繰り返し検討されてきたものの、いまだ原因の 解明および有効な解決策は見出されていない。本研究は、ケニアの中等学校に 発生する放火という特殊な暴力形態に注意を向け、学校放火事件の特徴と原因 を明らかにすることを目的とする。分析の結果は、次の 3 点にまとめられる。 第一に、放火は複数生徒が学校への主張を共有している場合に生じやすいこと、 第二に、学生寮が被害を受けるものの意図的に他生徒を殺傷するリスクは軽減 されていること、第三に、放火の背景には生徒自身の権利や居場所を脅かされ ることに対する不安があること、である。以上を踏まえ本稿では、学校教育に 伴う近代を象徴する装置が、放火を誘発する一要因ではないかと導いた。よっ て、ケニアの学校放火は、若年層の個別の暴力や生徒の無規律によって生じる ものと捉えるよりも、寮制校や権威主義といった閉鎖的空間に対する抵抗、ひ いては、近代学校という制度に対する社会的な抵抗として捉えるほうが妥当で はないかと提起した。