共生学研究
Online ISSN : 2759-2782
共生の再定義
反差別の声と社会的カテゴリ
橋本 憲幸
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2024 年 1 巻 p. 200-223

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抄録
本稿の目的は、共生の哲学の立場から従来の共生の定義に批判的検討を加え、よりよい共生とは何かという思想的な問いに新たな解を示すことである。共生学では、反差別を契機に立ち上げられた共生の系譜を引き継ぎながら、共生に対し“差異の承認と対等な関係の構築に向けたマジョリティとマイノリティの相互変容”という意味が付与されている。また、共生は他者認識の多元化、つまり“社会的カテゴリの更新”としても意味づけられている。しかし、共生はマイノリティから発せられた反差別の声であり、社会的カテゴリの使用自体が差別であるとの捉え方を重く受け止めるなら、マイノリティにも変容を求める前者の共生理解も、社会的カテゴリの使用それ自体は継続する後者の共生把握もいずれも不十分ということになる。本稿は共生に関わる諸学の知見を参照しつつ、社会的カテゴリの解除は望ましいだけでなく可能でもあることを示す。社会的カテゴリを解除した先に出現する属性を取り払った個と個の関係にこそ共生の名はふさわしい。共生は他者とりわけマイノリティを社会的カテゴリに還元しないこと、したままにしないことをまずはマジョリティに要請する。
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© 2024 共生学会
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