教育哲学研究
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教員養成教育における「臨床経験」のリフレクションをめぐって
「プロセスレコード」を用いたリフレクションの意義
山口 恒夫
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2006 年 2006 巻 94 号 p. 75-79

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抄録

今日の大学における教員養成教育の課題のひとつは、学校での「体験」と大学での「省察 (reflection) 」をいかに有機的に結びつけるかという点にある。日本教育大学協会の答申「教員養成『モデル・コア・カリキュラム』の検討」 (二〇〇四年) をも契機として、「〈体験〉-〈省察〉的な科目群」や「臨床経験科目」が多くの教員養成系大学・学部の教員養成プログラムに導入されている。そこでは、教員の職務の体験や子どもたちとの触れ合いを目的として、教育現場での体験的学修の機会が養成段階の初期から提供されている、しかし、子どもとの触れ合いを積み重ね、教員の職務にいわば身体知によって接近しても、それが単なる児童生徒の操作技法の獲得に終わっては、教師の職務を単なる専門技術者のレベルに貶めることになりかねない。重要なのは、「臨床の場」で求められる判断力や子どもたちとの相互作用を省察する態度と方策を身につけることである。
臨床の場とは、状況に捲き込まれつつ、当事者同士がコミュニケーションを進展させながら「関係」を構築する場である。こうした臨床の場に立つケアの専門家-教師や看護師等-には、状況にコミットしつつ、自己自身の応答や作用過程に対して不断にモニタリング=リフレクションする能力が求められる。
「省察=リフレクション」は、ドナルド・ショーンによる「反省的実践家 (reflective practitioner) 」の概念の提唱を契機として、教員養成ばかりでなく、医学教育・医師養成や看護教育においても重要なキーワードとなっているが、リフレクションの意義やその理論的基礎づけは必ずしも十分ではない。筆者らの研究グループが取り組んでいるプロセスレコードによる「臨床経験」のリフレクションの試みは、教育実践の現場に立ち会う教員や実習生と子どもとの関係の生成過程をつぶさに浮かび上がらせる方法の探究であるとともに、子どもとの多様な相互作用場面における教師の判断・応答の適切性とは何か、また、その適切さの根拠はどこに求められるべきかを明らかにする試みでもある。

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