九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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人工膝関節全置換術後の退院時歩行能力に影響を及ぼす術前因子の検討
*遠藤 翔*松田 友秋*福田 秀文
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キーワード: TKA術後, 歩行能力, 術前因子
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p. 16

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抄録

【目的】

近年,医療制度改革に伴い人工膝関節全置換術(TKA)術後の在院日数は短縮傾向にある。一方で,全ての患者が良好な経過を辿るわけではなく,歩行等の動作能力の回復が遅延する例も存在する。その為,術後の動作能力を術前に収集可能な評価項目から予測することは,この様な患者の早期発見や早期対応に有用な知見となる。本研究の目的は,TKA術後退院時の歩行能力に影響を及ぼす術前因子を明らかにすることである。

【方法】

対象は当院でTKAを行った52名であった(男性10名,女性42名,平均年齢76.7±6.6歳)。方法に関しては,術前因子として日本版膝関節症機能評価尺度(JKOM)と膝関節可動域を評価し,術後退院時に歩行能力の指標としてTimed Up and Go test(TUG)を評価した。JKOMは「膝の痛みとこわばり」,「日常生活動作の状態」,「普段の活動」,「健康状態」の4つの下位評価尺度と,膝関節痛のVisual Analog Scale(VAS)からなる質問紙表で,本研究では各下位評価尺度の小計と膝関節痛のVASを個別の評価指標とした。膝関節可動域は,両側の屈曲・伸展可動域を評価した。

統計学的処理は,退院時TUGを目的変数,前述した術前因子を説明変数とした重回帰分析を行った。尚,説明変数は事前に単変量解析で有意水準が0.2を下回るものを投入した。

【結果】

単変量解析の結果,退院時TUGに関連する説明変数はJKOMの「膝の痛みとこわばり」,「日常生活動作の状態」,「普段の活動」,「健康状態」,非手術側膝関節伸展可動域であった。これらの因子を投入した重回帰分析の結果,退院時TUGを説明する変数として,JKOMの「普段の活動」( β=0.51,p < 0.01),非手術側膝関節伸展可動域( β=-0.26,p < 0.05)が抽出された(R2=0.34,p < 0.01)。

【考察】

本研究の結果,術前の外出等の「普段の活動」と非手術側膝関節伸展可動域が退院時歩行能力に影響を及ぼすことが明らかとなった。JKOMの「普段の活動」は外出等の活動や参加に関連した評価である。中村らは,術前では下肢筋力とTUGが直接「活動」に,間接的に「参加」に影響を与え,術後は術前の要因に加え疼痛が間接的に「活動」に影響を与えることを報告し,Baertらは術前の疼痛等の不適切なコーピング(対処)が術後の疼痛や膝関節機能に影響することを報告した。これらの報告から,術前の疼痛等の対処を含めた活動や参加の制限が,術後の歩行能力に影響を及ぼすことが推測される。また,内田らの報告においても,術前の非手術側膝関節伸展可動域は術後2週目のTUGを予測する因子として抽出されている。TUGは起立・歩行で構成されること,手術側膝関節の構造的問題がTKAで改善するのに対し,非術側の構造的問題は術後も残存することから,術前の伸展可動域の制限が,術後の歩行能力に影響を及ぼすことが推測される。

以上のことから,TKA術後の退院時歩行能力を予測する術前因子として,疼痛等の対処も含めた活動や参加等の心理社会的要因,非手術側膝関節伸展可動域が重要であることが示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は、当院倫理審査委員会による承認を得て実施した(受付番号:2019-B4)。

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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