主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 20
【はじめに】
回復期リハビリテーション病棟で長下肢装具(以下KAFO)を用いて歩行練習を行う事は多いが,退院後にKAFO を用いる事は少ない.今回,退院後の生活にセミKAFOを用いた症例を担当し,若干の知見を得たので報告する.
【症例紹介】
60歳代女性.α日に右中大脳動脈領域に広範の脳梗塞を認め急性期病院へ緊急搬送.α+51日にリハビリ目的で当院へ転院.デマンド:歩いて家に帰りたい.
【初期評価】(α+51日)
Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS):II-II-II,感覚は表在・深部感覚共に重度鈍麻.高次脳機能障害は注意障害,身体失認,左半側空間無視を認めた.基本動作はすべて全介助.排泄動作はオムツ全介助.FACT:0点,BBS:0点,FIM40点.
【治療介入】(α+51日~)
入院時よりKAFOでの歩行練習を開始した.2ヶ月後には短下肢装具(以下AFO)での歩行が側方介助にて可能となった.しかし,高次脳機能障害の影響もあり急な膝折れがみられた.在宅復帰をする為にKAFOの大腿カフ部分をカットしてセミKAFOでの病棟生活を開始した.病棟職員への定着を図る為に介助指導や張り紙の提示を行った.
【最終評価】(α+205日)
BRSII-II-III,感覚は表在・深部感覚共に中等度鈍麻.高次脳機能障害に大きな変化はない.基本動作は起居,座位は見守り,起立,移乗は軽介助,歩行は三角巾,4点杖,セミKAFOにて軽介助.排泄動作はトイレにて膝継手と下衣の操作に軽介助を要する.FACT:7点,BBS:25点,FIM:84点,要介護3
【考察】
皆川らはKAFOのカットダウン時の下肢のBRSはほぼIII以上であったと報告している.しかし,田中らは半側空間無視をはじめとする高次脳機能障害の影響からカットダウンが遅延する事は少なくないと報告している.本症例はBRS左下肢IIIレベルだが,高次脳機能障害の影響が強くあった為にAFOでは急な膝折れがあり,転倒リスクが高く家族の介護負担は大きいと考えた.安全な在宅生活を行う為にKAFOでの在宅復帰を検討した.しかし,KAFOでは装具の着脱や排泄時の下衣操作が手間であり,歩行時の装具の重さも考慮して大腿カフ部分をカットしたセミKAFOを選択した.その際に大腿カフ部の強度が低下し,金属支柱に歪みが生じた為,後方にフレームを追加し強度を調整した.また,介助を行いやすくする為に介助ベルトを後方へ設置した.セミKAFOを用いた生活が定着する為に病棟生活での導入を図った.しかし,病棟職員がKAFOを扱う機会は少なく,当初は病棟職員の介入を十分に得る事ができなかった.その為セミKAFOを用いる意図や着脱方法,介助方法の伝達を繰り返し行う事で徐々に病棟生活での定着が図れた.セミKAFOにて在宅復帰をした事で歩行時の転倒リスクの軽減やトイレでの衣類着脱が容易となり家族の介護負担は大きく軽減した.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理審査委員会による承認を得て実施した.(2019年4月5日)また,対象者には十分な説明を行い同意を得た.