九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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人工膝関節置換術後患者における歩行立脚期の膝関節運動範囲に影響を及ぼす空間的・時間的因子の検討
*松田 友秋*福田 秀文
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p. 21

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抄録

【目的】

変形性膝関節症(膝OA)における歩行立脚期の膝関節運動範囲の減少は,健常群と膝OA群,膝OAの重症度の違いを示すことから膝OAの発症や進行に関与することが報告されている(Jenkyen 2008,McCarly 2013)。また,人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後も健常者と比較し歩行立脚期の膝関節運動範囲は減少していることが報告されており(井野 2013),TKA術後の歩容の改善を図るうえで重要な課題であると考えられる。

一方で,歩行立脚期の膝関節運動範囲は,初期接地からの荷重応答期における膝関節屈曲角度の最大値と,立脚中期から立脚後期における膝関節伸展角度の最大値によって算出されるが,これらの空間的・時間的因子に関して検討した報告はない。

本研究の目的は,TKA術後における歩行立脚期の膝関節運動範囲に影響を及ぼす空間的・時間的因子を明らかにすることである。

【方法】

対象は内側型膝OAに対して初回片側TKAを行った女性18名であった(平均年齢77.8±3.9歳)。至適速度での5mの直線歩行を課題として,デジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-ZS10)で歩行中の矢状面映像を3施行撮影した。撮影した映像をもとに動画解析ソフトKinoveaを用いて後述する初期接地から立脚後期までの各マーカーの座標データを計測した。なお,座標データ計測ための標点マーカーは大転子,外側上顆,腓骨頭,外果に貼付した。計測した座標データを元に,表計算ソフトExcel 2010 (Microsoft社製)を用いて,1)初期接地の膝関節屈曲角度(IC膝屈曲角度),2)荷重応答期の膝関節屈曲角度最大値(LR膝屈曲角度最大値),3)立脚中期から立脚後期にかけての膝関節伸展角度最大値(MSt~TSt膝伸展角度最大値)を計測し,2)3)のデータから膝関節運動範囲を算出した。また,2)3)の時間的因子については初期接地から立脚後期を100%として,対立脚期時間に換算した(%Stance Time:%ST)。

統計学的処理は,膝関節運動範囲を目的変数,その他の空間的・時間的因子を説明変数とした重回帰分析を実施した。なお説明変数の選択は事前に単変量解析で有意水準が0.2未満のものを選択した。

【結果】

単変量解析の結果,歩行立脚期の膝関節運動範囲に関連する変数はIC膝屈曲角度,LR膝屈曲角度最大値,MSt~TSt膝伸展角度最大値の%STであった。これらの因子を投入した重回帰分析の結果,歩行立脚期の膝関節運動範囲を説明する変数として,MSt~TSt膝伸展角度最大値の%ST(β=0.78,p <0.01)が抽出された(R2=0.58,p < 0.01)。

【考察】

TKAの対象となる膝OA患者では,歩行時の下肢筋群の同時収縮の増大(Hubley 2009)やDynamic Joint Stiffness(立脚初期の膝関節の硬さ)の増大(Zeni 2009)と関連して、歩行立脚期の膝関節運動範囲が減少することが報告されている。また重度膝OA患者では、歩行立脚期の足関節背屈角度が増大することも報告されている(Huang 2003)。これらの知見は,足関節を支点に膝関節を屈曲位で固定したまま歩行する膝OA特有の歩行様式を反映するものと考えられる。

本研究の結果,歩行立脚期の膝関節運動範囲が膝関節伸展運動の時間的因子に影響を受けることが明らかとなった。この結果は,TKA術後における歩行立脚期の膝関節運動範囲を改善する上で,膝関節伸展運動のピークを立脚期後半まで持続させるための機能に着目することの重要性を示唆するものと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,当院倫理委員会の倫理審査において承認を得ている(承認番号:2801)。すべての被検者には研究の意義,目的等について十分な説明を行い,研究参加に関する同意を得て本研究を実施した。また本研究に関して開示すべき利益相反はない。

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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