九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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コミュニケーション機器を使用し、身体機能と感情表出が向上した事例
*前田 孝志
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p. 44

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抄録

【目的】

頭部外傷による四肢麻痺となって長年経過した利用者に対し、非言語コミュニケーション機器を用いてリハビリテーション(以下、リハビリ)を実施した。他者とのコミュニケーションにより意欲や気力は向上するが、今回、コミュニケーション手段を獲得したことにより、身体機能と感情表出が向上した為、ここに報告する。

【症例紹介】

30歳代女性。病名:脳挫傷後遺症、てんかん、慢性気管支炎、四肢麻痺。X年に交通事故。X+2年、気切部閉鎖。X+13年後、通院リハビリから訪問リハビリへと移行した。身体の残存機能として左肩関節屈伸内外転、肘関節屈伸、母指屈曲運動だが正確性、持続性にかける。コミュニケーションは閉鎖的質問、簡単なあいさつに対しては、瞬きにて反応する。眼球運動は右眼球運動の内転動作に制限があり、PC画面左1/3が認識できない。

【方法】

視線入力装置とPCを用い、簡単なゲームを行った。ゲームを含め視線入力の練習時間は週1回、15分から始めた。その後、自宅で家族が所有しているiPadへ変更し、オーバーテーブルに固定して使用。操作は「できiPad」「ジェリービーンスイッチ」を利用した。入力方法は筋出力が正確である、左肩関節外転動作にてスイッチをタップすることで実施。

【経過および結果】

視線入力練習では、眼球の動きをゲームで練習した。はじめは眼球運動がうまく行えず、PTがマウスで補助することで成功体験を積み重ねた。ゲームに慣れてきた頃からゲームの点数を意識してもらうと、回数を重ねるごとに点数は高くなっていき、練習後に声を出して笑うようになった。その頃家族からも「食事の時間が短くなった、痰を吸引する回数が少なくなった、表情が豊かになった、左上肢の動きが良くなってきた」などの報告が聞かれた。このことから、左上肢の随意性を利用しiPadを操作できないか評価した。左肩関節外転運動が最も正確かつスピーディであると判断しiPadの操作練習を開始した。アプリの選択から始まり、アプリ内でのスイッチ操作、文字入力へと繋げていった。

【考察】

視線入力装置導入以前から左上肢の残存機能を使い、スイッチの練習は行っていたが、可動性、正確性が伴わず、実用的ではなかった。家族からも「いきなり文字入力の練習となると、本人がつまらないだろう」と従来の意思伝達装置の購入には消極的であった。今回、視線入力練習で、本人の意欲を上げるゲームから始めたことで、左上肢の可動性や、反応、意欲が向上していったと考える。次のステップとして家族が使用していたiPad操作へ切り替えることで、家族の負担や不安を解消でき、コミュニケーション能力が向上したのではないかと考える。

【まとめ】

今回、最新の技術を取り入れながら、本人の意欲・気力を引き出し、身体機能とコミュケーション能力が向上した。また家族の負担や不安を解消しながら行えた。

【倫理的配慮,説明と同意】

発表に際しヘルシンキ宣言に基づいて実施し、本人・家族に十分な説明を行い、同意を得た。また本報告の計画立案に対し、事前に所属施設の安全管理委員会の承認を得た。

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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