主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 62
【はじめに】
股関節脱臼は高エネルギー損傷によることが多く、骨折や坐骨神経損傷、大腿骨頭壊死などの合併損傷が多いと言われている。今回、外傷性股関節後方脱臼により、坐骨神経麻痺を呈した症例を経験したので報告する。
【症例紹介】
症例は70歳代の女性。某年某月、飲酒後に帰宅した際、玄関のマットで滑って転倒し受傷した。翌日、体動困難であるところを知人に発見され、左殿部痛を主訴に当院救急搬送となった。受傷前のADLは自立で、独居であった。
【経過】
入院時所見は、左殿部から大腿部の疼痛・しびれの訴えがあり、左足背の感覚鈍麻、足関節・足趾の自動運動が困難であった。単純X線画像・CT画像で、左股関節後方脱臼を認めたが、明らかな骨傷はなく、Tompson & Epstein分類 Type Iと判断された。股関節後方脱臼に対し、全身麻酔下に脱臼整復術を施行し、脱臼から約17時間後に整復された。
整復後、臥床時は外転枕を使用し、受傷後3日目より、荷重・離床が許可され、リハビリを開始した。リハビリ開始時の筋力はMMTで膝伸展5、膝屈曲2、足背屈0、足底屈2と低下を認め、坐骨神経支配領域の筋力低下を認めた。また徒手筋力計測器(Hoggan社製microFET2)を用い、健側に対する患側の筋力の割合(患健比)を算出した結果、膝伸展100%、膝屈曲26%、足背屈0%、足底屈28%であった。
治療プログラムは、筋力低下部位を中心とした関節可動域練習、低周波などを用いた筋力増強運動、平行棒内での歩行練習、ADL練習を行った。
受傷後4日で1/2荷重での平行棒内歩行練習、6日で2/3荷重での歩行練習、7日では両松葉杖歩行の練習を実施し、受傷後10日で近医への転院となった。転院時のJOA scoreは21点であった。
受傷後3ヵ月、12ヵ月で当院再診があり、受傷後3ヵ月でのMMT・徒手筋力計測器による患健比は膝伸展5・95%、膝屈曲3・46%、足背屈0・0%、足底屈4・90%であり、膝屈曲、足底屈で向上を認めたが、足背屈は依然として筋収縮を認めなかった。歩行はRie strap、T-caneを使用し自立し、JOA scoreは67点であった。
受傷後12ヵ月でのMMT・徒手筋力計測器による患健比は膝伸展5・94%、膝屈曲4・77%、足背屈3・55%、足底屈4・66%であり、足背屈筋力の向上を認めた。足背屈筋力がMMT3まで向上したことにより、歩行は装具なし、杖なしでの歩行が可能となり、JOA scoreは89点と改善を認めた。
【考察】
過去の報告では、股関節後方脱臼に合併する坐骨神経麻痺の頻度は8~19%であり、脱臼の程度や整復までの時間によっては、まれに下垂足を呈するとの報告がある。本症例は、脱臼整復までに約17時間かかっており、受傷後3ヵ月での背屈筋力はMMT0であったが、12ヵ月ではMMT4まで改善した。しかしながら、筋力の回復は依然として不十分であり、過去には股関節脱臼23例中2症例に、大腿骨頭壊死を認めたとの報告もあることから、今後も筋力増強運動の継続、経過観察が必要である。
【倫理的配慮,説明と同意】
患者には、今回の発表に関する主旨と個人情報保護について、口頭・書面にて十分に説明し、同意を得た。また、開示すべき利益相反はない。