九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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臨床実習における学生の自己評価の一考察
―中間評価時に自己評価シートを利用して―
*楠元 正順*吉村 修*田崎 秀一郎*二宮 省悟*吉田 勇一
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p. 82

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抄録

【目的】

臨床実習を通して学生は,臨床場面で多くの体験や経験を重ね,臨床能力を養っていく.そして,臨床実習は,臨床実習指導者(以下,指導者)と学生との共同作業であるため,臨床実習の目標を共有することは重要となる.臨床実習では,実習期間中盤で中間評価を行い,指導者が学生へフィードバックを行う機会がある.中間評価は,課題を明確にして目標の軌道修正のために重要とされており,実施することが推奨されている(臨床実習の手引き第5版,2007).当院では,養成校の中間評価用紙に加えて,我々が作成した臨床実習自己評価シート(以下,自己評価シート)を使用して,学生への中間評価を試みている.この自己評価シートは,評価者の主体的な基準に基づくもので,成長したことのポジティブ要素と自己課題のネガティブ要素を記載させるものである.自己評価を学生自身の基準で行った内容を客観的に捉えることは実習期間中盤以降での臨床実習指導のヒントとなる.そこで,今回,自己評価シートに記載された内容を分析,検討を行ったので報告する.

【方法】

対象は当院で過去5年間実習を行った理学療法士養成校13校の51名から,同一の指導者から指導を受け,かつ自己評価シートを使用して中間評価を行った14名(男性9名,女性5名)を対象とした.自己評価シートは,学生が自己採点(100点満点)を行い,採点した点数の内容,そして,不足した点数の内容を最大5つ挙げるように記載させた.採点した点数の内容をポジティブ要素,不足した点数の内容をネガティブ要素に分類した.そして,記載内容を情意領域,認知領域,精神運動領域の3領域に分類を行い,それらが2つの要素の内容全体に占める割合を算出し分析を行った.

【結果】

中間評価時のポジティブな要素の内容に占める割合は,情意領域50.8%,認知領域17.5%,精神運動領域31.7%であった.情意領域では「患者とのコミュニケーション」や「課題達成に向けて行動」,認知領域では「疑問を持つこと」や「考えること」,精神運動領域では「触診」や「オリエンテーション」ができるようになったなどが挙がった.ネガティブ要素における割合は,情意領域38.1%,認知領域25.4%,精神運動領域36.5%であった.内容は情意領域では「報連相・確認」,「積極的な行動」ができていない,認知領域では「基礎知識がない」,「患者像が捉えられない」,精神運動領域では「リクス管理」ができていない,「治療・評価技術が足りていない」などが挙がった.

【考察】

今回の結果より,ポジティブ要素の内容に占める割合は,情意領域が最も多く,次に精神運動領域,認知領域の順であった.ネガティブ要素も同様であったが,情意領域はポジティブ要素より少なかった.これらのことから,中間評価時の自己評価は,成長したことや自己課題ともに3領域の中で情意領域を最も評価していることが分かった.中間評価は,臨床実習の軌道修正を行う重要な機会と位置づけられる.学生の自己評価に基づきフィードバックすることは,指導者と学生の目標の共有だけでなく,認識の相違を修正できるものと考える.さらに中間評価でネガティブ要素だけでなく,ポジティブ要素にも注目することは,学生が自己を適切に評価する能力を養うこととなり,臨床実習の理想と現実との乖離を少なくすることへ繋がると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき,倫理面の配慮において,当院における倫理委員会の承認を得た(承認番号:2018).なお,利益相反に関する開示事項はない.

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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