九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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難治性褥瘡患者に対して微弱電流刺激療法実施し、早期に改善に至った一例
*野田 智志
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p. 83

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抄録

【はじめに】

日本褥瘡学会による「褥瘡予防・管理ガイドライン第4版」では、創の縮小をはかる場合、電気刺激療法は推奨度Bである。杉元らによる先行研究によると、直流微弱電流刺激条件(陰極:創部、陽極:健康皮膚部、80μA、治療時間40分、毎日実施)で電気刺激を行うことにより、停滞していた褥瘡面積の縮小が認められ、早期に褥瘡が治癒したと述べられている。しかし、創洗浄後に電極を創部に直接貼付する研究が多いため、今回は、臨床場面では同条件での電気刺激を行うことが衛生的に難しいため、電流刺激条件の電極の位置を、褥瘡を中央とした健康皮膚部に陰極陽極ともに貼付し治癒効果を検討した。

【症例紹介】

右混合性脳出血(視床+被殻)を発症した50歳代男性。既往にDM、アルコールアレルギー、慢性腎不全により人工透析を行っている。右前腕内人工血管内シャント閉塞により、対側前腕内に人工血管シャント挿入術施行のため、一時リハビリ中止となる。中止期間に殿部仙骨部表皮剥離から褥瘡発生。褥瘡発生から14週経過した状態から微弱電流刺激療法開始。

【褥瘡管理】

褥瘡に関して、30°と90°側臥位を2時間毎に体位変換を行い、エアマットを使用。局所管理に関しては、毎日創部洗浄とドレッシング材交換を実施。栄養管理は胃瘻にて1日2000kcal摂取。実施期間中の血清アルブミン値やヘモグロビン値の著名な変化はみられなかった。

【評価と介入方法】

評価は当院看護師による「褥瘡対策に関する診療計画書」の褥瘡の大きさ(直径×直径の直交する最大径)を基に、微弱電流刺激療法開始日から医師が褥瘡完治と判断した日までを計測。介入方法は、低周波治療器(伊藤超短波社製トリオ300)のMCRモードを使用。電気刺激条件は電極を、褥瘡を中央とした健康皮膚部、電気刺激強度と頻度に関しては先行研究と同条件の80μA、毎日実施と設定し、治療時間を20分とした。また、本症例はアルコールアレルギーがあり、今回使用の電極にはアルコール成分であるグリセリンを使用していたため、本症例家族同意のもと、医師監視下で左大腿部内側部に使用電極で一週間パッチテスト実施。

【結果】

褥瘡発生後、褥瘡最大値は90mm×55mmあり、微弱電流刺激療法開始時期(褥瘡発生から14週)で75mm×55mmであった。介入後、7週目(褥瘡発生から21週)で医師が褥瘡完治と判断。

【考察】

今回の結果から、陰極を創部に直接貼付せず、褥瘡を中央とした健康皮膚部に電極を貼付する条件であっても褥瘡の治癒促進に繋がったと考えられる。先行研究によると、褥瘡治癒を促す線維芽細胞は陰極に遊走されることが報告されているが、陰極を創部に貼付していなくても、電極間に同等の褥瘡治癒を促す線維芽細胞が遊走しているのではないかと考えられる。しかし、今回は単症例のため、自然治癒との比較を行うことができないため、どう臨床の場で比較試験を行っていくかが今後の課題である。

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例のご家族に対してヘルシンキ宣言に基づいて、目的や意義について十分な説明を行い、同意を得た。

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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