主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 94
【目的】
脳梗塞患者の運動機能の低下は脳の構造的損傷に起因することから,これまでにも両者の関係について多くの研究がなされてきた.特にDTI画像を用いたtractographyにより,急性期の皮質脊髄線維(CST)の異方性(FA)や両側のFA比が運動機能と正相関することが示唆されている.しかしその一方で,回復期の患者の中には両者の関係に乖離が認められる者も散見されることから,より詳細な運動機能の回復メカニズムを明らかにするためには,CSTの構造的接続性(SC)のみならず,回復期における皮質間の機能的接続性(FC)と運動機能の関係についても分析する必要があると思われる.そこで今回,回復期脳梗塞患者のFCとSCを解析し,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)との関係について分析した.
【方法】
対象は脳梗塞患者18例(66.5±5.2歳,男性6例・女性12例,右片麻痺12例・左片麻痺6例,発症後11.5±7.8週,全例右利き)とした.FCの撮像にはGE社製1.5 Tesla MRI Brivoを用い,撮像条件はGradient echo EPI,TR 2500ms,TE 50ms,Matrix 64×64,FOV 21.2×21.2cm,Volume 200とした.FC解析にはMATLABを用い,病変側中心前回(preCG)に対する対側preCG・両側中心後回(postCG)・両側補足運動野(SMA)のBOLD変動の相関を算出した.また,同時にDTI画像を撮像し,DSI studioを用いて中脳腹側を関心領域とした投射線維を描出(stop criteria: FA=0.2,Angle=60°)した後,描出された軌跡のFA値とFA比を算出した.統計学的処理にはEZRを用い,SIASの運動機能・筋緊張・体幹機能の各得点とFC及びSCの各指標との関係について,Spearmanの順位相関係数を算出した(α=5%).
【結果】
病変側preCGに対するFCは,対側preCG: 0.48±0.29,同側postCG: 0.65±0.18,対側postCG: 0.33±0.38,同側SMA: 0.51±0.22,対側SMA: 0.33±0.23であった.また,投射線維のSCは,同側FA: 0.50±0.03,対側FA: 0.54±0.02,FA比: 0.94±0.04であった.さらに,SIASの運動機能(14.0±8.5点)は対側postCGとのFCに関連(r=0.57)し,筋緊張(7.0±3.2点)は対側preCG(r=0.56)と対側postCG(r=0.72),体幹機能(4.1±1.5点)は対側preCG(r=0.47)と同側postCG(r=0.51)及び対側postCG(r=0.70)とのFCに関連した.その一方で,FA及びFA比との間に有意な関連は認められなかった.
【考察】
本研究ではCST以外の白質線維の影響も加味して隣接線維(皮質延髄線維・皮質橋線維・皮質網様体線維・内側毛帯)を含めた投射線維を描出したが,SIASとFA及びFA比との間に関連は認められず,SIASとFCとの間に関連が認められたことから,回復期のSIASには残存する投射線維群の頑健性よりも皮質間ネットワークの機能的再編がより強く影響することが示唆された.さらに,対側postCGとのFCが運動機能・筋緊張・体幹機能と関連し,対側preCGとのFCが筋緊張・体幹機能と関連したことから,急性期以後のSIASの改善には感覚領野を含む両側半球の機能的な連関が重要であることが示唆された.最後に,本研究の手法は侵襲がなく縦断的な調査を可能とするため,今後両側のpreCGとpostCGの機能的再編を促進する理学療法技術について検討することにより,脳梗塞患者のリハビリテーションにさらに寄与するものと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は研究施設の倫理審査委員会の承認(2016090502)後,対象者に同意を得て実施した.各種データは連結可能匿名化して解析し,利益相反に関する開示事項はない.