主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 96
【はじめに】
今回,心不全を重複した脳梗塞患者に対し,リスク管理を行いながら理学療法の運動負荷や病棟生活での活動量の設定を行いADLの向上を図った.その設定方法に着目し経過を振り返り検討した.
【症例紹介】
60歳代男性,身長180cm,体重65.9kg,BMI20.3.現病歴:心不全(NT-proBNP:6301,LVEF:14%)により入院加療後,自宅退院.退院後13日目に心原性脳塞栓症を発症し救急搬入.発症37日目,当院回復期リハ病棟へ入院.
【経過】
入院時所見:Br.stageII-II-II,感覚障害なし,四肢末梢冷感あり,端座位で足部にチアノーゼあり.NT-proBNP803,LVEF30%,CTR54%.起居は見守り,移乗は最大介助.歩行は平行棒内最大介助.FIM:運動項目35点,認知項目28点.入院時所見から,医師を含めた担当者チームで協議を行い,まずは理学療法の運動負荷増加に対して,生活上での疲労感,睡眠状況,食欲等の変化,体重増加,NT-proBNPの上昇等,心不全増悪の兆候が無いことを確認し,次に病棟生活での活動量を増やしていく方針を共有した.退院時の目標は,自宅内の移動が歩行補助具を使用して自立するとした.
入院当日より理学療法開始.初日と2日目は座位や立位でのバイタルサインの変動を確認.3日目より医師と看護師の同席のもと,歩行前後のバイタルサインの確認を行い,平行棒1往復(6m)×2セットの歩行練習を開始.歩行練習以外は,神経筋促通や立位練習を実施した. ADLはトイレ動作や更衣は介助,移動は車椅子で介助とし,理学療法以外での運動負荷が大きく増加しないようにした.理学療法の運動負荷を増やす際は医師を含めた担当者チームと情報共有し,心不全増悪の兆候が無いことを確認しながら歩行補助具の変更,歩行距離や立位練習の時間やセット数を増やしていった.
入院4ヵ月目,Br.stageIII-IV-III,NT-proBNP495, 理学療法内で起居・移乗は見守り,歩行は1本杖とAFOを使用して可能となった. 心不全の増悪なく経過したため,トイレ動作や更衣を自立とし,夕食前後の歩行を導入した.病棟生活での活動量増加に対し心不全の増悪がないことを確認しながら,再度理学療法の運動負荷を増やし,身体機能の向上とADLの拡大を図っていった.
退院時(6ヵ月目),Br.stageIII-III-IV,NT-proBNP538,起居・移乗は自立, 病棟内歩行は見守り.FIM:運動項目72点.外泊で自宅内の歩行が1人で安全にできる事を確認後,自宅退院となった.
【考察】
本症例は,脳卒中片麻痺による身体機能や基本的動作能力の低下に加え,心機能の低下を有し,積極的な運動療法やADL向上が困難であった.このような患者のADLを心機能の低下なく安全に向上させるためには,理学療法におけるリスク管理に加え,多職種と協働し,病棟生活での活動量を管理していくこと,次に安全に活動量増加が図れているかを確認し,再度,理学療法の運動負荷を設定するというサイクルが有用であると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例検討はヘルシンキ宣言に則り実施し,当院倫理審査委員会から承認を得た.本人に説明し同意を得た.