九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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回復期脳卒中患者におけるバランス能力と移乗自立度の関係性
*吉竹 陽介*横尾 匠*紫藤 泰二*吉原 正博
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キーワード: 脳卒中, 機械浴, FIM
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p. 99

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抄録

【はじめに】

2016年の診療報酬改定より,回復期リハビリテーション病棟での実績指数としてFunctional Independence Measure (以下FIM)が用いられるようになり,FIMは近年さらに重要視されている.FIMの移乗の項目は,「ベッド・椅子・車椅子」「トイレ」「浴槽・シャワーチェア」の3種類に分類されている.本研究の目的は,それぞれの移乗項目で脳卒中バランス良好群とバランス不良群の間に移乗自立度の違いがあるか,バランス能力と移乗能力の関連性を検討することである.

【対象】

当院の回復期病棟へ入院した脳卒中患者139名(70.9±12.1歳,女性46.7%)とした.認知機能低下の影響を除くために,先行研究を参考にしてHDS-Rが20点以下の者を除外対象とした.

【方法】

Berg Balance Scale(以下BBS)のカットオフ値に関する先行研究を参考に,バランス良好群(BBS≧46点)とバランス不良群(BBS<46点)を2群に分類し,2群間におけるFIM移乗自立度の差を明らかにするためにχ2検定を行った.また,バランス良好・不良の2群とFIM歩行自立度とのクロス集計表から,どの組み合わせが期待値から大きく乖離しているか確認するためにHabermanの残差分析を行い,調整済み残差を算出した.統計学的有意水準は5%とした.

【結果】

対象者は139名でバランス良好群は89名,バランス不良群は50名であった.χ2乗検定の結果,「ベッド・椅子・車椅子」「トイレ」「浴槽・シャワーチェア」3つ全ての項目において,移乗の自立度とバランス能力に強い連関性がみられた.Habermanの残差分析の結果,バランス良好群では3つの移乗項目全てにおいてFIM7点の者が有意に多かった.一方,バランス不良群では「浴槽・シャワーシェア」の移乗において,FIM2~3点の者が有意に少なく,FIM1点の者が有意に多かった.

【考察】

以上の結果より,バランス機能が良好なものほど,移乗の自立度が高いことが示唆された.一方,FIM1点の者が「ベッド・椅子・車椅子」「トイレ」の移乗では少なかったのに対し,「浴槽・シャワーチェア」の移乗では有意に多かった.この原因の1つとして機械浴の利用が考えられる.機械浴を使用している場合FIMは1点となる.普通浴槽を使用していればバランス能力の向上に従ってFIMの点数は段階的に上がっていくのだが,FIM1点のみが有意に多い結果を見ると,バランス能力の向上に関係なく,本人の希望や介助者側の安全の問題などにより,機械浴を長期に利用し続けている可能性も考えられる.これは生活の中での練習場面を奪ってしまい,ひいてはADLの回復を遅らせている可能性も考えられる.昨今の実績指数の観点からも回復期病棟として考慮しておかなければならない問題とも思われる.いずれにせよどのタイミングで普通浴槽を使用していくかは,患者本人とチーム間で話し合いながら慎重かつ注意して考慮していくべきものと思われる.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は当法人の倫理委員会の承諾を得た.開示すべき利益相反はない.

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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