主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 100
【はじめに】
外科手術における術後合併症のリスク因子として喫煙歴および低肺機能があり、術前の喫煙情報が重要となる。一方、能動喫煙のみならず受動喫煙への関心が高まりつつあり、厚生労働省より健康増進法として受動喫煙対策案が公表された。受動喫煙による健康被害を検討した柴田らの研究では%FEV1低下を認めるとの報告があり、副流煙においても呼吸機能低下が示された。
術前喫煙における術後経過についての報告は多くなされているが、受動喫煙を含む症例に関しての報告は極めて少ない。そこで、今回、肺切除患者の術前喫煙状況が術後経過に影響するか否かを後方視的に検討した。
【対象と方法】
2017年8月~2018年10月の期間で肺切除術を施行された60~80歳の男女55例(平均年齢69.3歳、男性30例、女性25例)を対象とした。方法としては診療録より後方視的に基本属性(年齢、性別)、術式、呼吸機能検査(%VC、%FEV1、FEV1%)、術後経過(在院日数、呼吸器合併症)を調査した。
喫煙者の定義として現喫煙、既喫煙を含み過去に1本でも喫煙したことがある者(A群)とし、受動喫煙者に関しては過去に喫煙歴がなく、対象が自認する周囲の喫煙(家族、職場)に暴露された者(B群)とした。なお、非喫煙者(C群)を含め3群に分類して比較検討を行った。
統計解析には各評価項目の連続変数に関して正規性の検定後に一元配置分散分析およびKruskal-Wallis検定を用いた。呼吸器合併症の有無に関してはカイ二乗検定を行った。なお、有意水準は5%とした。
【結果】
喫煙者34例、受動喫煙者11例、非喫煙者10例であった。術式は胸腔鏡補助下/開胸(A群29/5例、B群10/1例、C群9/1例)であった。各群の比較では%FEV1(A群95.1%、B群117.1%、C群119.5%)がA群で有意に低値を示した。術後経過では在院日数(A群10日、B群7日、C群7日)がA群で有意に延長していた。肺炎や皮下気腫等の呼吸器合併症は各群で有意差を認めなかったが、A群が高い傾向を示した(A群35%、B群18%、C群0%:p=0.07)。各評価項目でB群とC群に有意差はみられなかった。
【考察】
本研究において喫煙群では%FEV1および在院日数に有意差を認めた。中西らは喫煙群で術後合併症の発生率が高く、在院日数も延長していたと報告している。今回の結果からもタバコ煙の暴露に従って呼吸機能低下および呼吸器合併症の発生率に高い傾向が示された。また非喫煙者においても受動喫煙の機会がある症例では呼吸機能への影響が推察され、これらの関連性を確立するさらなる検討が必要と考えられた。研究の限界としてサンプルサイズが少なく、臨床的指標となるとは言い難く、今後も症例数を増やして検討を重ねる必要がある。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究で得られた情報については、個人が特定できないように匿名化を行い、研究代表者が責任をもって厳重に管理した。なお、当院の倫理委員会の承認を受けている(第550号)。